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「トラブルコンダクター ものがたり」⑪ 毛皮いかがですか? [暴露ばなし]

~オストドは優秀?な毛皮販売員~
添乗員の商売は傍から見るほど楽な商売ではない。
お客様が「ぐっすりお休み」になっている時間も、スッチーを口説いたり、電話番号を聞きだしたり・・・と忙しい。その上、出入国書類や税関申告書の作成を行ったり、清算書を作成したり、ギャレーに行き、カップめんを頂いたり、チーパーのグチを聞いたり、新人スッチーの実験台になったりお大忙しである。
ここに面白い統計がある。「お客様が添乗員の言う事をどれだけ従うか?」である。
国内と海外を比べてみると、海外のほうがダントツでほぼ100%に近い数字になる。
まあ普段日本で威張っている『社長さん』も海外では「ねこのようにおとなしくなる」ものだ。「迷いぱなしの子羊」を柵に集める(無事帰国させる)のが、私たちの仕事の根幹になるわけだ。
「時差ぼけ」と言った言葉は添乗員の辞書には存在しない。存在こそしないのだが、
12時間の時差(つまり、昼夜逆転)の仕事は辛い。
例えば成田集合10時出発12時でシカゴ・トロントを経由してナイアガラのホテルに入る場合には、添乗員のスタンバイは大体お客様集合の2時間前の8時。遅くとも5時には起きなければいけない。寝れるのが大体その25時間後くらいになる。
まあ、飛行機の中で「うたた寝」状態にはなるが、それも1~2時間程度にすぎない。
夕食を終え、翌日の行程確認。バスタブにたっぷりとお湯を張る頃、フロントからの電話。お客様がバスタブのお湯を溢れさせ、「階下」に漏れさせたという。
早速、「状況を確認」しに飛んでゆく。どうやら疲れのあまり寝てしまったのが原因。
過失度100%で弁解の余地もない。幸いお客様の「海外旅行傷害保険」を調べてみると、「損害賠償」も付帯されているので、保険会社とホテル間の『協議』に任せることにする。
ヘロヘロ状態で部屋へたどり着く。入浴を済ませベッドに潜り込む。
それと同時に「毛皮屋」の社長からの電話が鳴り響く。
「アロー」少々不機嫌な声になるのは仕方ないこと。
「もしもし。オストドさん。ジェ-ムスです。お疲れ様でした・・・・。」
「ああ?社長か・・・・・・ご無沙汰です。」
「明日、寄ってくれるでしょう?」
「やだ。」
「お願いしますよ。10・・・いや15.は最低出しますから・・・」
「行程にはないんだけど・・・・・。担当とケンカしたの?」
「ええ。Rでちょっと・・・・」
「道理でね。・・・寄らなくていいと言われてるんだけど・・・」
「そこをなんとか・・・。」
「バスもないし・・・・。ガイドも知らないしね。」
「送迎はうちのほうでやりますから・・・・・」
「リムジンなら・・・行ってもいいかもしれないけど・・・ついでに夜のトロント観光もつけてくれる?」
「ええ。1時間ほどナイトスポットめぐりでどうですか?」
「ん-。解ったけど強制はできないよ?」
「それでいいですから・・・・。とりあえず5台用意します。」
「それじゃ、値段はいつもどおり・・と言うことで、夕食は・・・・・」
「○△レストランですよね。そちらまでお迎えに・・・」
「それでは・・・おやすみ」
結局、5時間ほどの睡眠で起床。
ガイド嬢に朝食ビュッフェ券を与えたので、いつもの「2.99」のカフェに行く。
朝の冷気の中を歩けば目が醒める。コーヒーにオレンジジュース。トースト2枚。卵2個のスクランブル。を平らげ、ホテルへ戻る。
各部屋から「バッゲージダウン」された荷物の個数を調べるのも、朝の大事な仕事。
ナイアガラ観光を行い、展望レストランでの昼食。
「いいですか?窓の外の景色を覚えておいてください。一周したら各自1階にエレベーターで降りてください。」と告げる。ここでは集合時間を言ってもムダである。
「1周したら降りろ」で正味1時間の食事時間だ。
ガイドと共にビュッフェへ降りてゆく。おしきせの食事では量も少ないし、食べる気にもならない。好きなものを好きなだけ食べるのが性に合っているのだ。
「ガイド嬢と夜の観光」について打合せをする。顔見知り?だから話は早いのだ。
ナイアガラからトロント市内へ向かう。市庁舎などの観光。
ホテルに向かう途中、マイクを握る。
「大変お疲れ様でございました。これより本日のホテル。ウ○スティンに向かいます。夕食は市内のレストランでロブスターをご用意しております。また今回のお客様は皆さんとても素晴らしい方ばかりでございますので、サプライズといたしまして、本来の行程にはないリムジンで巡るトロント夜の観光へご案内いたします。またご希望のお客様がいらっしゃいましたら、CNタワーからご覧いただくトロント夜景一望へご案内いたします。ご夕食は徒歩で散策をしながら迎いますので、6時にロビーへご集合ください。」
添乗員のサプライズほど怪しいものはない。つまり「お小遣い稼がせてね!」と言うものなのだが、日本人ほど貪欲な人種はいない。折角だから・・・の声で全員参加。
まあ、CNタワーの入場券は社長に払わせればいいこと。
ホテルでチェックインを済ませる。このホテル私にはいつもビジネススィートをあてがってくれる。バスは帰してしまうので「とりあえず」ガイドの荷物も私の部屋へ運ぶ。
夜送っていけばいいこと。
明日の行程をコーヒーコーナーで打合せ。夕食もご招待する。これも毎度おなじみ。
レストランに一緒に確認にでかけ、1名追加をする。
「待望の時間」は刻一刻とやってくる。「ツアコンの奢り」と称してワインを振舞う。もちろんこれは、社長が払うのだが・・・・。約束の時間少し前に社長が現れる。
トロント在住の店のスタッフを1名ずつ乗り込ませ、「夜の観光」が始まる。
その後、毛皮屋へいく。毛皮の加工場のスタッフから、ミンクの毛皮で作った「小物」をプレゼントされ、加工過程のミンクを肩に掛けられた女性陣は、その瞳をまるで童心に返ったように輝かせ、その魅力に取り付かれてゆくのだ。
一通り・・・・つまり、一匹いや多数匹のミンクが飼育場から一枚・いや多数の毛皮になって工場に運ばれてくる。
その『命の代償』ともいえる毛皮が美しく女性を彩っていくわけである。
その加工場において数匹のミンクが縫い合わされ毛皮製品になっていくわけだが、
工場を抜けたところにあるのが、『本日のメーンイベント』毛皮の即売会場というわけだ。ここでは、ホストクラブのホスト。まあ今で言う「イケメン」の巧みな話術により、女性陣を陥落し、男性はここに存在するこれまた「どこのクラブ?」と言いたくなるようなホステス・・いや女性売り子によって『撃墜』される仕組み。
彼等の巧みな戦術に白旗を揚げそうになりながらも、『理性』を保とうとしているお客様の最後の牙城を崩すのが、オストドの仕事になるわけだ。
女性陣には、背中を冷たいモノが流れるのをガマンしながら、「奥様のためにデザインされたようなもので、・・・」とわざと絶句。「どうしたの?」と聞かれればしめたモノ。
「いや・・あまりにお似合いなので・・・・つい見とれて・・・」なんて言おうものなら、99.9%の確率で陥落する。
また、「現実の世界」に引き戻そうとする「哀れな子羊・・・いや旦那様を説得するのも、私の仕事。「これが日本だったら・・・・倍は行きますよ。帰国後買われたら大変ですね。」とさりげなくフォロー。「でも・・・税金が」とか「持ち合わせが・・・」とかの最後の抵抗も計算済み。「大丈夫。日本の税関は値打ちなんか・・・・それに、カナダ政府公認の領収書を・・・」とか、「日本へ持ち込ませますので、その際にお支払い・・」とか、「ご帰国後のご送金で・・・」などで打破してゆく。
「少々・・・お高いわねぇ~。」これいただきたいのだけど・・・・」とおっしゃるご婦人。
要は「値引きしろ」の合図なので、社長を呼ぶ。
「社長。私の大切なお客様をご案内したので、特別値引きしてくれませんか?」と私
この言葉には「裏」がある。全てこの店の定価に戻せ!と言う合図。
「しょうがありませんねぇ。お客様がたはラッキーですね。ツアコンがオストドさんで・・・今回だけ特別にお値引きしましょう・・・・」
旦那様方は若い女性店員に「結婚するならこういう優しいご主人みたいな人・・・」と言われ、鼻の下を伸ばし、奥様方は若いイケメンの「甘~い!」言葉に踊らされ、半狂乱の夜は終る。でも、ここからもう一押しが私である。社長から『手土産』として渡されたミンクやブルーフォックス等のショールやミンクで作った犬のぬいぐるみをこれ見よがしに見せる。ミンク素材の犬のぬいぐるみが当時3000円だったのだが、これまた競って買っている姿は滑稽・・・・いや、ありがたいことである。
その後、CNタワーにご案内をする。トロント随一の高さから見る夜景はお客様の心にどのように映ったのであろうか・・・・・。


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