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「父親を辞める日・・・・」4章 「気負い過ぎた・・・子育て [「父親を辞める日・・・・」]

過度の期待は重圧になる・・・

「ねえ~弟か妹が欲しい!・・・出来れば両方・・・・」

娘に散々言われた言葉・・・・。妻は「お父さんに言いなさい。」と言い・・・私は「お母さんに言え!それか・・・毎晩、神様にお願いするんだな・・・」とぼかし続けていた。

「すぐ・・・そうやって・・・逃げるんだから~もう!」

娘は怒ってそっぽを向く。
私たち夫婦だって・・・望まなかったわけではない。望んでも・・・次に私たちの元へコウノトリが来なかっただけ・・・・
それに・・・今からもう10年ほどになるんだけど・・・右睾丸セミノーマという・・・ガンに侵された私。
片方(右側)の睾丸の摘出手術を受け、放射線治療を受けた訳だけど・・・その当時・・・私立の女子高にスポーツ推薦で入学していた娘は、部活の過酷さでノイローゼ気味だった。
そんな娘を妻に任せっきりにして手術・・・治療に臨むことは出来なかったので、仕事の多忙を理由に手術を先延ばしにしていた。

「もう・・・これ以上・・無理だな・・・手術しないと・・・命に係わることになるかもしれない・・・・」
「先生・・・あと・・・半月だけ・・・」

娘は義務教育の小学校・中学校と転校が・・・6回・・・ちょtっと異様な数の転校を、本人の都合ではなく・・親の・・それも私の都合(ただ・・手狭なための転居、保険会社の宿命による転居。転職による転居)にだけ・・・振り回された娘。
その娘が小学校・中学時代と仲の良かった友達を誘い・・・海に連れて行く約束を交わしていたのだ。
その約束さえ・・・果たせないようでは・・・私は生きている資格もなくなってしまう。
何しろ・・・ノイローゼになったのは・・・私のせいなのだから・・・

もしかして・・・最後になるかもしれない海への2泊3日の旅を終えた翌々日。世間ではお盆休みの真っ最中。
大雨の降る中・・・入院・即摘出手術・・・・3日で帰れるはずが・・・一週間の入院。局所麻酔のはずが全身麻酔に切り替えられ・・・今にも破裂しかけていた・・・睾丸の摘出。すぐ・・・病理検査に廻され・・・下された宣告は、悪性腫瘍。

何故・・私が解ったのかと言えば・・・・「先生!ガンなら教えてください。保険に入っているので・・・」と言ったのを覚えていた先生が・・・「診断書の所定用紙持っておいで・・・」と言ったからに過ぎないけど・・・・
抜糸を迎えたある日(それまで・・・自宅で療養)先生が妻も診察室に招き入れた。

「放射線治療受けたほうがいいね・・・ただ・・・・」

要は・・・もう子供はこれ以上望めない身体になりかねないこと。仮に妊娠しても奇形児が生まれる可能性が非常に強いことなど説明を受けた。
こんなことを娘に告げても・・・理解できないだろう。・・・・父親は・・・目に見えない障害者になるのだ。それも公的支援を受けられない・・・・障害者に・・・・

「まあ・・・それ以外は仕事も出来るし・・・定期的に検査すれば大丈夫。」

何せ・・・ホームドクターの出した答え・・・素直に従うしかない。
こうして・・・私は・・・障害者になる代わりに・・・命を存えるべく・・・日本の放射線治療医の第一人者を紹介され・・・治療を受けることになった。
通常は通院治療で済むのだが、私は敢えて入院を希望した。別に・・保険金が欲しくないと言ったら嘘になるけど、
そんなに休暇もとることは出来ないし・・・何より・・・・嘔吐を繰り返す・・無様な姿を娘に見せたくなかったのだ。
一日に浴びることの出来るほぼ最大値に近い被爆量の放射線治療は15回。入院日数26日間。
一日わずか数分の治療・・・・はっきり言って我侭な入院生活。
私は個室を希望した。何故なら・・・個室なら嘔吐を繰り返しても同室者に迷惑を掛けないで済む。
入院生活も不思議なもの・・・普段なら・・入院でもしてゆっくり休みたいなと思うこともあったけど、いざ・・入院ともなれば・・・「果たして・・社会復帰できるのだろうか?」という不安に駆られる。
医師からリハビリを兼ねて一日一回外出して・・・外を歩く訓練を言い渡される。恐る恐る外出して・・新宿の街中を徘徊するが・・・人混みに酔う自分がいる・・・その人々の歩くスピードに追いつけないもどかしさを感じる日々。
毎日のように外出し・・・昼食は外で食べるように・・・ステーキ・とんかつ・・うなぎ・・・娘の目からしてみれば・・・
「贅沢な我侭者!」にしか映らなかったらしい。娘は学校を辞めなければいけないかもと思い込んでいたのだ。
妻に言わせると・・・「少し・・苦労させたほうがいいの・・・」と言っていたけど・・・保険金も入るし、給料だって丸々支給される訳だから・・・「心配いらない!」と伝えろと強く言わなかった・・・私が悪い。

この病は私たち家族に大きな後遺症を残した。私と妻・・特に私は娘に過度の期待を掛けて・・・重圧を与えてしまった。
私はとある由緒ある家・・それも本家筋・・・本家筋で見てゆくと・・・本家を継ぐ者はうちの娘ただ一人になってしまう。
本家筋には何の因縁だか知らないけど・・・他に子供がいないのだ。
ただ・・・由緒ある家の名前・・・そして・・わずかな相続する財産。それに・・・会社。
確かに・・・それらを受け継げば娘は一生・・・食べるに困らないし・・・それなりの暮らしは保証される。
そこへ・・・もう一人の私が意見をしてくるのだ。
娘の立場からしてみれば・・・婿養子を取らなければならない・・・・その相手に職業選択の自由はなくなる。
そして・・・社員・家族・・関連する人間数百名の生活がのしかかる。そんな重い十字架を背負わせていいのだろうか?

そんなもう一人の自分を振り払い・・・更なる重圧を掛ける私。
当然のごとく・・・娘は反発する。嘗ての私がそうしたように・・・・妻もただ・・・長女だからと両親から過度の期待と重圧に反発して育ってきた。
二人して・・あんな親にはならないようにしようと誓ったはずなのに・・・
今・・・娘がその十字架を背負うことを期待している私の姿。

「こんな父親像・・・お前が一番嫌っていたはずじゃなかったのか?それじゃぁ~娘が可哀想だろ・・・」
「でも・・・社員とかの生活・・・・・」
「馬鹿野郎!お前なんか・・父親失格だ!」
「そうか・・・」

私の中のもう一人の私が責める。それを今、私は受け入れなければならない。自ら・・・父親失格の烙印を押すことによって・・・
間違った選択なのかもしれないけど・・・私が一族の恥さらし者として永遠に罵られようと・・・
例え・・その命を終え・・地獄の業火にこの身が焼かれようと・・・構わない。
愛する娘の幸せを願わない父親なんか・・この世にはいないだろう。
だから・・・私は自ら・・父親失格の烙印を押して・・・娘を自立させようとしている。
私のように悔やみぱなしの人生より、彼女には進むべき・・・道がそこにあるのだから・・・・

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