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オストドの想い出・・・「空を飛んだ男の話・・・・」 [エッセイ]

「・・・・ランウェイ24・・・クリアード・・テイクオフ」

「ラジャークリアード テイクオフ。ランウエイ24・・・」 そう答えるのが、コーパイ席に座る友人。

僕は高校時代、トコトン殴り合い、お互いにこれでフィニッシュだ!そう叫びあいながら、

互いに思い切りクロスパンチを浴びせ、心底、笑い合った友人から、誘われて出かけて行った。

「なあ!ケイ。一緒に“空の散歩”をしないか?」

「はぁ?俺・・・ライセンスねえぞ!」

「いいんだよ・・俺が持っているからさ・・・」

唐突の電話であった。アメリカ海軍の戦闘機乗りであった彼。Jrからの誘いだった。

僕の名前は日本人でも呼びづらい。ましてや彼は沖縄生まれのアメリカ人。

そして彼の名前も呼びづらいので、彼は僕のイニシャルで“ケイ”と呼び、僕は彼の事を、“Jr”と呼ぶ。

「ほら・・さっさと行けよ!」

「いいのか?本当に・・・・」

「ああ・・お前の夢だったんだろ?」

颯爽と言いたいところだが、エプロンからヨタヨタとまるで産まれた赤ん坊のごとく、

そう彼は笑いながら、講評してくれた。

「なんだよ・・ベイビーじゃないんだから・・・思い切り行けよ!」

少し、戸惑う僕の背中を押す声。僕は教えられた通りに、少々エンジンの出力を上げる。

「そうだ・・その調子。いいかい!操縦桿はお前の好きなテニスのラケットを握る様にな・・・」

「ああ・・・どこまで行けばいいんだ?」

「そうだな・・・燃料満載だし、まっすぐ行けよ!」

「まっすぐ行くと・・サボテンの群れに突っ込む気がするんだが・・・・」

「いいか!そこにセンターラインがあるだろう?それに沿って進め・・・そうだ・・その調子だ」

いつの間にか、気が付けばランウェイ24に正対しようとしていた。

そこまでの“道中”だって・・・まるで“蛇が這うが如く”、”蛇行”を繰り返していたのだ。

「なあ・・本当に大丈夫だと思うか?」

「ああ・・俺が、最初に飛んだ時よりは、成績は悪いけどな!」

僕はJからプレゼントされた“グローブ”を嵌め、その中はすでに汗でグッショリだったし、

身体中かに流れる冷や汗を感じ取っていたのだ。

「どうした・・ケイ。思い切り行けよ!いい事を教えてやる。」

「今頃かよ?」

「いいから聞けよ!今、俺達がいるランウェイは、ジャンボだって着陸しようとすれば出来るんだぜ!」

「なるほど・・じゃあ・・ちょっとぐらいなら・・・」

「そう言う事!さあ~ケイ。行こうぜ!俺達の世界へ・・スロットル全開。ブレーキ外せ!」

「ああ・・・こうなりゃ・・クソ度胸をみせてやるよ!スロットル全開。フラップ10・・・行くぞ!」

「そうこなくちゃ・・・」

Jrは僕の“指示”通りにフラップを操作し、スロットルを全開に叩き込んだ。

「OK!ケイ・・・」

「ラジャー」

僕はじれったそうに今にも飛び上がりたくてうずうずしている機体のブレーキを緩めた。

それをまるで恋人を待ち焦がれている様に、胸を膨らませていた機体はグングンスピードを上げる。

「V1・・」 Jが叫ぶ。

僕は計器類をさっと見渡し、叫んだ。

「コンティニュー!」

「ローテーション!」 Jが叫ぶのと同時に僕はほんの少しだけ操縦桿を引く。

「V2・・・行けぇ~ケイ!」

そのとき、僕が初めて空へ自ら操縦して舞い上がる瞬間がやってきた。

「VR・・・」

「ラジャーギヤーアップ。フラップスアップ!スピードエイティー!」

本当ならもう少し格好良く離陸したかったのだけれど、何はともあれ僕は空に浮かんでいる。

「セスナ・・ライトヘッティング160・・・コンタクト・・・・」

僕が装着しているヘッドフォンから流れる訛りの早口。僕にはこれぐらいしか聴こえない。

「ラジャー。セスナ・・・ライトヘッティング160・・・フライトレベルスリーーサウザン・・・コンタクト・・・VOR」

僕は飛行前のブリフィングを思い出していた。無意識に右旋回するべくペダルを踏み、操縦桿を倒す。

「いいぞ!ケイ・・初めてにしては上出来だ!洋上訓練にいくぞ!」

「ああ・・折角だからな・・・・こんな機会滅多にねえだろうし・・・・」

「そうさ・・ケイ!フライトレベルをスリーサウザンまで上げるぞ!スロットルに注意しろよ!」

「俺がやるのかよ!」

「ああ・・いい機会だろ?ケイ!」

僕は・・Jrに言われる様に何とか機体をコントロールしながら、洋上訓練エリアに入って行った。

様々な訓練の後、Jrが切り出した言葉。

そこで僕は“とんでもない事になったな?”と思たのだ。

「いいかい。ケイ?」

「あん?」 僕は空から見る太陽の光が輝く海を見ていたときだった。

「パイロットはその瞬間まで諦めちゃいけないんだ。」

「らしいな・・・」

「そこで・・これから、エンジンを切る!」

「切る?馬鹿かJr.墜落するだろうが・・・・」

「いや・・・こいつはグライダーと同じ、いやそれ以上の性能がある。」

「それでどうするんだ?」

「いいかい緩やかなバンクで硬化するのはさっきやったよな?」

「ああ・・・」

「それの応用さ・・・エンジンのかけ方は覚えているだろ?」

「まあな・・・だけど・・・俺・・・」

「なんだ・・ケイ?」

「サメのいる海だけは、降りたくないけどな・・・」

「大丈夫だよ・・・行くぞ!」

こうしてエンンを止められたセスナは“風前の灯”一歩手前だった。

勿論、僕の寿命もあわや一歩手前まで行っていたに違いない。

唸りを止めたエンジンが息を吹き返し、僕は訓練空域を一杯に使いながら、

何とか高度ツーサウザンまで、高度を戻していたのだ。

「OK!ケイ・・・疲れただろ?」

「まあな!これ以上何かやらせ様とすると保証はねえぞ・・・」

「ああ・・解っている。帰ろうか?アイハブ・・・」

「ラジャー・ユーハブ・・・」

こうして・・・僕の最初で最後のフライト体験が終った瞬間でもあった。





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pandan

最初で最後だったんですか〜
by pandan (2010-01-15 09:14) 

多夢

やっとPCが治ってきましたぁ。
遅ればせながら今年もよろしく

by 多夢 (2010-01-15 11:15) 

デルフィニウム

さすがに着陸はなかったのですね。ドキドキしました。
by デルフィニウム (2010-01-15 13:33) 

麻里圭子

今晩は、超面白いお話です!!
麻里圭子
by 麻里圭子 (2010-01-15 20:36) 

pandan

おはようございます〜
今日はセンター試験です。

by pandan (2010-01-16 06:16) 

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