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悪魔との契約 -何が少年を変えたのか?- 第一章 ① [小説]

第一章 お情けを受けているくせにと言われた子供

- 電車に飛び込む寸前で・・・-

「あいつ!何やってんだ?ラッキー電車を待っているのか?それとも・・・」

少年はベンチにランドセルとお弁当箱を入れた専用のカバンを置いたまま、入ってくる電車を眺めていた。
男性教師は、売店の片隅に身を潜め、少年の動向を凝視しつづけた。

「あいつ・・・まさか!いや!・・そんなことはない。あいつに限って・・・」

男子教師は、襲いかかってくる不安を一生懸命に頭から振り払おうとしていた。
でも、それらを消し去ろうとすればするほど、考えたくない光景が浮かんでは消え、また浮かんでくる。

「あいつだって・・何度も目撃しているし、そうだ・・あのときだって・・・」

男性教師である阿部は思い出していた。少年の案内で少年の出身幼稚園に、生徒募集のご案内に行ったときだった。

「先生!誰かスイカ落としたのかな?」

少年は担任である男性教師・阿部と一緒に居たホームから、ある一点を指さしていた。
おかしなことを言う奴だなとも思ったが、視力が悪い阿部には、生徒である少年が指さす所には、何かあるのは解ったのだが、それが何か知る由もなかった。

「何を・・今の時期にスイカなんてあるわけ・・・」

少年の指さす所。そして聴こえて来たアナウンスで、阿部はそれが一体何なのか、想像することが出来た。

「クプ!見るんじゃない!」

少年は“クプ”とみんなから呼ばれていたのだ。担任である。阿部にしろ、親しみを込めてクプ!と呼んでいる。
阿部は咄嗟に生徒の目を自らの両手で覆い隠した。線路上では一生懸命。駅員等が総出で“何か”を拾い集めている。そうその何かと言えば、電車に飛び込んで轢死し飛び散った人肉の一部だったのだ。
多分、少年はそれをスイカに例えている。まあ、確かにスイカ割りでもした後の飛び散ったスイカの様にも見える。
阿部はこの時のことを思い出したのだ。少年だけではない。自分の勤める学校の伝統と言ってはおかしいけれど、歴代にも渡って、いたずら小僧がいる。彼等は電車の車掌さんが押す、発車のチャイム音を鳴らしてみたくて仕方がないのだ。まあ、毎年の様に学校側に鉄道会社から、苦情が舞い込むことになっている。
まあ、男性教師である阿部にしたって、多分、彼等ぐらいの年齢で毎日電車通学してきていれば、悪戯で押してしまうのも、解らないわけではない。いい事も悪い事も、子供たちは大人の行動を真似したがるのだ。

「クプ!電車が動くまでもうちょっと掛るみたいだから、ジュースでも飲みに行こう!」
「うん。先生いいの?買い食いはいけないんだよ?」
「そうだけどね・・・先生!喉渇いちゃったんだ。先生が一緒だからいいんだよ!」

阿部は考えた。このタイミングで“この前叱った事をもう一度教えておこう”。今ならきっと解ってくれる。

「クプ!電車が動くまで駅前の先生がいつも立ち寄る喫茶店に行こうか?」
「いけないんだ!先生!寄り道はいけないんでしょ?」
「大人はいいんだ!アイス美味しいぞぉ~」
「ホント?」
「ああ!クプはアイスの載ったソーダ水好きかな?」
「うん。大好き!」
「じゃあ!先生と一緒だ!先生も大好きなんだよ」

男性教師でクプの担任である。阿部はクプを連れて、駅前の喫茶店に入ってゆく。キョロキョロあたりを見回すクプに阿部は小さな声で聴いた。

「クプ!どうしたんだい?」
「ここ・・・来たことある!」
「本当かい?」
「うん。授業参観の帰りにね。長谷川クンと一緒に・・帰りにお揃いの“星日記”を買ってもらたんだよ!先生!」
「星日記?ああ・・クプ!学校に持ってきたやつだったね。」
「うん。先生に見せたでしょう・・あれがそう!」
「そうか・・クプ!ここに座ろう!すいませ~ん!」

阿部はクリームソーダーを二つ頼むと、クプを座らせた。他愛もない会話をしているうちにクリームソーダが二つ運ばれてきた。

「クプ!食べながらでいいから聴きなさい!」
「はい!先生!でも・・クリームソーダって食べるのかな?飲むのかな?」
「そうだね・・先生も解らないや・・・それより、これから大事な事をお話しするからね!クプ!2年生の時の悪戯で先生に怒られたのを覚えているかな?」
「ええとぉ~一杯あったから・・・黒板消し?」
「ちがうよ・・・ヒントは駅かな?」
「ええと・・・階段でグリコのオマケをしないだったかな・・・」
「おしい!ホームでは?」
「走り廻らない!」
「それから?」
「ええとぉ~車掌さんの押すベルを押さないかな・・・」
「そう!何故先生は怒ったっけ?モモキック喰らったよね?」

阿部はクプが2年生になった時に叱ったことのある。発車のチャイムを押した事をクプに思い出させた。

「あっ!そうだった。目の見えない人が勘違いして電車に轢かれたらって・・怒られたんだった。」
「そう・・何故怒ったのかか?これからちゃんと説明するからね!先生ちゃんと理由を話してなかったしね!」
「うん・・・」

阿部は少年である生徒クプに、解りやすく教えるにはどうしたらいいのか?考えながら静かに話だした。
クプの通う学校の校長先生は、小学校だけの校長先生ではない。主事先生と言う。まあ、普通の学校ならさしずめ、教頭先生と呼ばれる先生が、実質の校長先生だった。
その主事先生はクプの好きな先生であり、いつも職員室で怒られているクプを、助けてくれる先生なのだ。
クプの学校でもあり、阿部の通う学校では、週に3回。1年生から6年生まで、全員雨の日以外、校庭に集合して、雨の日は小学校の生徒のためにある。体育館兼講堂で、朝礼を行うことになっている。

「クプは主事先生好きだろ?」
「うん。」
「主事先生の息子さんね。電車に轢かれてそれが元で亡くなったんだよ!知ってたかな?」
「うん。主事先生。涙こぼして朝礼でお話ししてたから、電車には気を付けることって・・・」
「そうだね。主事先生はみんなに気を付けて欲しいんだ!だから・・クプ!が押した時、主事先生にも怒られたよね?」
「うん。あのとき・・主事先生怖かった・・・」
「そうだね。もしクプはもうしないだろうけど、あの時クプが押した時、目の悪い人がいたら、死んじゃったかもしれないんだ。だから、先生も怒ったし、主事先生は悲しそうな顔をして、怒ったんだよ。解ったかな?」
「はい。先生。もうしません!」
「それとね・・・クプ!」
「はい・・・」
「さっき見たのは忘れた方がいいけど・・・あれは、電車に轢かれた人の肉なんだ。」
「そうなの?先生?」
「うん。クプ。スイカって言ったけど、駅員さんたちが袋を持って歩いていたよね?」
「うん。一杯歩いてた。」
「いいかい!クプ。電車で人が轢かれると、多くの人が迷惑するんだ。それっていい事かな?悪い事?」
「悪い事!」
「そう!正解だ!じゃあ!クプ食べちゃっって行こうか?幼稚園の先生待ってるよ!」
「うん。順子先生元気かな?」
「うん。クプと一緒に行きますって言っておいたよ!楽しみに待ってるって!」
「やったぁ~」

売店の影に隠れながら、阿部はあのときのクプの笑顔を思い出した。その時、クプと呼ばれていた少年は、
ランドセルとお弁当箱を入れた鞄。その上に被っていた制帽を脱ぐと、ランドセルの上に置き、制服の袖口で涙を拭っていた。そして、電車が入ってくるアナウンスを聞くと、静かに立ち上がり、ホームの端に静かに歩いて行った。

「あ・・あのばかやろう!クプ早まるんじゃない!」

阿部はホームの白線の外へ出ようとしている。クプを追い掛けた。

「止めなくちゃ!あいつの人生はまだまだ先はあるんだ!俺が守らんでどうする。」

少年であるクプが正に電車めがけて飛び込もうとした。その瞬間。全力で走り寸前で渾身の力を込めて、クプを抱きかかえた阿部。

「クプ!危ないところだったんだぞ!いつも言っているだろう。」
「先生?なんで・・・・」

少年クプは不思議そうな顔をしていた。その目からはどうして止めたのか?と言わんばかりの抗議の目と、一杯泣いたのだろう。真っ赤な目をしていた。

「クプ!大丈夫か?」
「だから、先生がなんでここに?」
「うん!お前に頼みがあってな・・・言うの忘れてたから、一生懸命追いかけてきたんだ。」
「頼み?明日・・・」
「いや・・・お父さんには電話しておいた。クプじゃなきゃ出来ないんだ。やってくれるね?」
「何を・・・・」
「そうだったね。先生。頼み事をする前にやってくれって・・おかしいね。」
「うん。」
「クプ!またアイスクリームの載ったソーダー水飲もうか?」
「でも・・」
「いいから!帰りは先生が送ってゆく。お父さんは先生の頼み聴きなさいってさ!」

男性教師・阿部はほっとしたのと同時に、何でこの子が苦しむ必要があるんだ!という怒りをお必死に押さえこんでいた。

「クプ!今日は・・アイス2個載せにしようか?」

阿部はしっかりと繋いだ少年クプの手を離そうとしなかった。少年クプのランドセルや弁当箱を入れたカバンを自分の肩に掛け、クプの制帽をクプの頭に被せると、深くクプの目の赤いのが廻りに気付かれない様にした。

「じゃあ・・いくよ!」
「先生!ランドセル・・・」
「いいよ!クプにお願いするんだから、先生が持って行くよ・・」
「先生!変だよ?」
「そうかな?」
「顔・・・先生泣いてるの?」
「そうかな・・うれし泣きだな!クプに追い付けたからかな?」

阿部は涙をクプと同じ様に繋いでいる反対側の手で拭うと、クプを引っ張る様に改札口に向かって歩いてゆく。
必死に阿部は考えた。

「この子は死のうとしたんじゃない。ただ電車が気になっていただけだ!この子はこんなことで死んでいいわけがない。大人の都合。理不尽な大人の何気ない一言。それだけで、死んでいい命なんかひとつもない。」

改札口を出た二人は、以前、一緒に入った喫茶店に入って行った。何故なら阿部は考えたのだ。
学校へ連れてゆけば、クプをまた追いこんでしまうことになるかもしれない。そうなれば、クプはまた同じ・・いや、それ以上に別な方法で命を自ら絶とうとするかもしれない。それより、この子に何か特別なことをしてやろう。
他の生徒たちには申し訳が無い。きっと怒鳴りこんでくる親も居るだろう。でも、悪いのはその親たちだ。いや、大人たち全員の責任であって、決してこの子の責任ではない。いずれ、いつの日になるか?クプだって解るはずだ。おっちょこちょいのお節介の先生がいたな!それでいいじゃないか!そうだ!クプと仲がいいのは?そうだソノシンだ。転校してきたソノシンを学校の中を案内したり、一緒に遊んだりしている。クプとソノシンの二人をセットにして・・・

「クプ!」
「うん?」
「ソノシンとは仲が良かったよね!」
「まあね。ソノシンの家だけは、遊びに行っても嫌な事言われないから・・・」

やっぱりそうだったのかと阿部は確信を得た。やはり、tの生徒の母親たちが、クプと遊んじゃいけないとか一緒の班にならない様にと言っているのだ。

「なあ!クプ!ソノシンと一緒に先生の助手やらないか?」
「先生の助手?」
「そう!先生忙しいだろ?」
「まあね。いつもはしりまわっているもんね。僕たちには走るなと言っているくせに・・・」
「そうだったね。そこでソノシンと一緒に先生の助手をしてくれるかな?」
「何するの?」
「そうだな・・・ガリ版を刷ったり、みんなにプリントを配ったり、連絡とかお手伝い・・・」
「いいよ・・・でも二人で足りるかな・・・・」
「後はだれがいい?」
「イッシーかな・・・」
「イッシー?五十嵐君かな?」
「そう。イッシーの家でも嫌な事言うけどね。イッシーは、味方してくれるもん!」
「解った!じゃあ・・3人で先生のお手伝い。解ったかな?」
「うん。考えてみる。」
「考えなくてもやるの!先生が決めたんだから・・・」
「うわぁ~でた。大魔神」
「えっ?」
「先生のあだ名!知らなかったでしょ?」
「知らなかった!そうか・・・大魔神ね。悪くないな・・・」
「先生・・・」
「ん?」
「アイスは?」
「そうだった・・・じゃあ・・食べながら話そう!」
「うん。」

阿部はクリームソーダそれも2個載せたアイスを食べはじめた少年クプを、眺めていた。

「これで・・この子が立ち直れるなら・・・」 

そう阿部は自分の胸にそう刻みこんでいた。「必ず・・守ってやる!理不尽な大人に負けるな!」そう思いながら


第一章 ② ピエロに続く・・・・





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コメント 4

S_S

プロローグもあるんですね
ゆっくりと読ませて頂きます^^

by S_S (2010-07-24 23:13) 

livly-cu

こんばんは。結果がある程度わかってても、ハラハラしました;
素敵な出会いと大魔神先生に感謝ですね~^^
by livly-cu (2010-07-25 03:18) 

かずっちゃ

御見舞いのコメントありがとうございました。
それにしてもオストドさんの創作意欲には脱帽です。
by かずっちゃ (2010-07-25 13:35) 

inacyan

手に汗握る展開ですね~(^^)
これからが又楽しみです(o^_’)b
by inacyan (2010-07-25 15:07) 

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