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僕と“う”と“な”の物語 -第一章 第六話 ー   [僕と“う”と“な”の物語]

- “モノ”と言われた子 1-

「なあ~」

「なんなり?あたちも忙しいなりよ!」

「何がだ?また勝手に肉まん持ってきやがって喰っているだけだろうが?」

「人間界はパワーが必要なりよ!パワーを得るためになりね・・・」

「はいはい・・・好きなだけ喰えっ!」

「主!」

「なんだ?」

「もうちょっと主の子供の頃を教えるなりよ!主は母親に抱かれたことは・・・」

「ない!記憶の片隅にもない!」

「そうなりか?母乳で育ったのではないなりか・・・」

「記憶によればだが・・・母乳ではない。粉ミルクだったらしいが・・・」

「じゃあ・・・ウシが主の母親なりか?」

「そんなところだろ・・強いて言えば」

「強いて言えばなんなり?」

「粉ミルクを作ってくれたり、おしめを代えてくれたヒトだろ・・・多分」

「じゃあその引き取ったってヒト・・じゃなかった鬼ババなりか?」

「ちょっと違うなぁ~メンドーだからいいだろ?その話は・・・」

「ケチなこと言うななりよ!」

「記憶には朧げでしかないが・・・」

僕の記憶の片隅にあるのは、義父の妹夫婦に育てられていた。その確証はその叔母にも、

そして、その妹の子供達、姉弟から聞いたのだからほぼ間違いはないはずだ。

「Kは確かにウチに居たのよ?」

Kと言うのは僕の俗世の名前だ。僕の居ないところでは“アレ”とか言われていたし、

現にも僕の妻でさえ、岐阜が他人に紹介するときは、“アレのアレ”と言われるくらいだ。

「アンタはねえ~ウチの両親が育てたのよ!」

「なんでかな?クソ親父と母親だったヒトが居たはずだけど・・・」

「おじさんやその奥さんだったヒトを悪くは言いたくはないんだけど・・・」

「知っているさ・・俺は単なる“モノ”だったんだろ・・・」

「K・・・そこまで知っているの?」

「答えはYES!かな・・・ただ・・どういう風に育ったのか知りたい。」

「そうね・・・K!あなたにはその権利がある。」

“姉ちゃん!”と呼ばれるその人は静かにそして、言葉を選びながら僕に話を始めた。

「いい?何を聞いても・・・KはKなのよ?」

僕はただ解っていると頷いてみせた。僕は僕であるし、過ぎ去った過去は過去だ。

いくら悔やんでも、やり直そうとしても出来るものではない。

僕の前にはただ常に“二つの道”があり、間違った道を選び進むと、僕の命ではなく、

大切に思う人の命がこの俗世から消え去ってゆく・・・ただそれだけなのだ。

「本当に大丈夫ね?間違えても・・・」

「間違えても?」

「そう・・早まったことをしてはダメ!いいわね?あんたはあたしの弟みたいなものなのだから」

「解っている」

僕はウソをついた。解ってなんかいない。いや、解りたくもない。

僕は単なる“モノ”にしか過ぎない。モノは唯・・・そこに存在すればいいだけだ。

まあ、“モノ”でもそれなりの教育なるものを受けたので、出来損ないのロボットか?

はたまた、出来損ないのアンドロイドくらいにはなったのかもしれないけど・・・

「あたしや・・弟が聞いたことがあるの・・・・ウチのお母さんに・・・」

「何を?」

「何でって・・・K・・・あなたがウチに居るのかって・・・・だってそうでしょう?」

「まあねえ~そうかもしれないね・・・オバさんが産んでくれたわけじゃないしね・・・」

“姉ちゃん”の話は、僕の想定内だった。いや、想定内だけではない。

僕が何かやらかして、“一族会議”が開かれると、僕を必ずと言っていいほど擁護し、

時には親以上に僕を叱りつけた叔母ともう他界してしまった叔父が思い出される。

「いいかい!K!あたしは喧嘩はするなとは言わない。だけど・・・」

「だけど?」

「いいかい!お天道様に顔を背けなければいけない生き方はするんじゃない!」

「何で?」

「お前は男だろ!」

「だろうねえ~」

「茶化すんじゃない!いいかい!そんな生き方をしたら・・・・」

「したら?」

「あたしが眼の黒いうちは、あたしが許さないいいね!」

突然、僕の頭の中では走馬灯の様に記憶がフラッシュバックされはじめたのだ。

“姉ちゃん”たちには、「この子には、お父さんもお母さんもいないの!」と叔母は言ったらしい。

そのうえで、このことは“秘密”とまで言ったらしい。

まあ、僕は“モノ”だったけど、自分で飲み食いして育つわけでもなく、ましてや自分で、

用を足したり、風呂には入らない。言い換えれば、手間だけ係る“お荷物”な“モノ”だったのだ。

「だからか・・・」

「何が?だからって何んなの?K」

「いや・・・おじちゃんやおばちゃんがやけに俺の肩を持ってくれたわけだ。」

「そうなの?」

「うん。まあ、俺にしてみればコインロッカーに捨ててくれるかゴミ箱の方が楽だったけど・・・」

「な・・何て言うことを言うの?」

「だってそうでしょう?少なくとも“モノ”ではなかったはずだから・・・」

「あのね!」

「少なくとも、俺はそう思うよ!そこには確かに自由があったはずだから・・・・」

「Kっ!」

「考え込んで、悩みぬいて、苦しんで、嘆いたり、悲しんだりすることもなかった。」

「Kっ!」

「俺は“モノ”なんだから、そんな感情すら持っちゃいけなかったのかもしれないけど・・・」

僕は捨て台詞を吐き捨てると、涙をいっぱい溜めた“姉ちゃん”を尻目に歩き出した。

「俺は・・・“モノ”なんかじゃない。オオカミだ。オオカミなんだ。」と自分に言い聞かせる様に

その場からの歩みを早め、まるで風の様に走り始めたのだった。

「主・・・・」

「何だ?」

「苦しいなりか?」

「苦しい?」

「そうなり・・・もしそうなら・・・」

「心配するな!俺は苦しくもなんともない。感情すら持っちゃいけない“モノ”だから・・・・」

「主・・・・」

「冗談だ!俺は“モノ”として扱ってくれた礼をしなきゃならないだけさ・・・」

「御礼に行くなりか?」

「ちょっと違うけど・・まっ!そんなところだ。お礼はお礼でもちょっと違う」

「オンなりか?」

「オン?ああ・・・恩じゃねえけどな・・・・」

「それはいけないなりよ!神様にまた怒られるなり。」

「怒られる?」

「そうなり・・・・」

「まあ・・それでもいいんだよ。俺の行先は決まっている。」

「どこに行くなり?」

「そうだな・・くたばったら・・・いや、くたばることが出来たのなら・・・」

「なら?なりか・・・」

「ああ・・・地獄めぐりのガイドでもやるさ・・・それがお似合いだと思う。」

「でも・・・弱い者いじめは良くないなり。それを教えてくれたのは主なりよ!」

「そうだったか?」

「そうなり・・・・」

僕は目を外へ向けた。窓の外いや・・・ベランダから見下ろすとそこには満開の桜が咲いている。

「桜の様に潔く・・・・」

「なんなり?」

「いや・・・どうせ咲いてしまったのなら、桜の花の様に散りたいものだな・・・」

「なあ!主っ!」

「何だ?」

「もう一個肉まん食べていいなりか?」

「好きなだけ喰えっ!心置きなく・・・な・・・」

何も復讐することだけが、怨念を晴らすことではないと、僕は”う”を導いたのだった。

きっと”う”も僕にそう言いたかったに違いない。

そうだ。“モノ”でもいい。僕は“オノ”だけど、熱く走る血はオオカミの血だ。

僕は復讐ではなく、見返すことを成し遂げればいいのではないだろうか?

僕と“う”と“な”の物語 -第一章 第七話 ー に続く。




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