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「やられたら・・・やり返す」第3章― 誓い ― [血みどろ?の争い]

― 第3章 誓い ― 通夜の夜の誓いは永遠の誓い (その1)

通夜が始まった。

オストドの主張通り、院居士の戒名が書かれた白木の位牌があった。

「これなら・・喜んでくれているかな?親父・・・・」

そう思えるほど。立派な戒名だ。

「お前!ナンボ包んだのよ!」

そう言われても不思議ではないほどの戒名だった。

お導師N師の読経の中、オストドはアウェー感が否めないが、長男として、葬儀委員長

そして喪主の次に焼香をする。

「親父・・判っているよ!悔しいだろっ!仇はきっと・・・・」

オストドは心の中で呟いていた。多分、タイムマシーンがあるのなら、きっと

過去に向かい。生意気盛りだったオストドをぶちのめしていたかもしれない。

まあ、後悔先に立たずというのは、オストドのためにあった言葉なのだろう。

せめてもの救いは、早くに母親を亡くした親父を可愛がってくれた叔母が、10日ほど前に

永久の旅へ出立したので、親父を憐れんで連れて行ってくれたのに違いない。

唯一、それだけが救いだった。

通夜式はあっという間に過ぎてゆき、200名ほど収容出来る。式場で、オストドは線香を炊き、

棺桶の中に眠る親父の顔を見ていた。

「具会一処か・・・・もう、会えるとは思わないけどな・・・親父は極楽浄土へ行けよ!」

オストドは固く誓ったのだ。この身が亡ぶ時には、餓鬼道へ落ちても構わないのだ。

「親父は殺されたんだ!きっと仇は討つ!」

こう書くと何を物騒な事を始めるのか?と思う方もいるだろうが、オストドはあくまで

合法的に親父を殺されたわけだから、そう・・・あくまでも、合法的に許される範囲で、

仇を討つことに決めたのだ。

「親父が受けたその・・・何十倍もの苦しみを与えてやるよ!いや・・千倍返し・・・・」

弔問客も次から次へと帰ってゆく。気が付けば、親父の後妻も挨拶もなしにいつの間にか、

姿を消していた。

まあ、居ると仮に言ってきても、慇懃無礼に追い払うつもりではいたので、一向に差し支えない。

夜間用出入り口の鍵も借りてあるし、寝る気は毛頭なかったが、寝具(布団一式)と洗面道具が

葬祭会社で2組用意してあった。

「Hちゃん・・そろそろ帰らないと拙いでしょ?明日は姪御さんの結婚式だし・・・」

最後にオストドの家庭教師でもあり、遠縁にあたる人を送り出した。

会場の外まで送ってゆくと、冷たい雨が降っていた。

スウェットの上下に着替えたオストドとメストド1号は、何度もその晩親父に話かけていた。

もう二度と起き上がることもできないし、喋ることすら出来ないのは、心のどこかで

判っていたはずだったのに・・・

「もう!いいんじゃないか?起きないと明日・・・燃やされちゃうんだぞ!」

「1500度だってよ!こんがり焼かれちまう前に・・・起きろ!隠れたきゃ・・・隠すから・・・」

何度話しかけても無駄なことと知りつつも、20分ごとに線香を炊き続けた。

親族控室は、オストドとメストド1号だけだった。

まあ、これが最後の“親子水入らず”になったのだから、不思議な気分だった。

オストドの身体の中を流れる。日本オオカミの血は沸騰を続けていた。

「きっと・・・仇は討つ!いいな!親父・・・それで勘弁してくれ!」

その時、他に誰もいるはずがない式場で、「ガタン!」と椅子が鳴った。

「親父!居るのか!居るんなら・・・少し話そうよ!」

それから・・・夜が開けるまで、オストドやメストド1号が話しかけると、まるで返事をしているように

「ガタン!」「ガタン」と物音が帰ってきた。

「よっぽど・・・悔しかったんだろ?判っている!仇は取らせてもらうぞ!」

「止めるのなら・・・今のうちに化けて出てこい!」

「仇を取っていいんだな!親父!」

最後にそう話しかけるとまるで、「YES!」と言うようにまた「ガタン!」と音が聞こえた。

後日談になるが、告別式が終わった夜に、親父が優しい顔をして、枕元に立った。

「俺との楽しい思い出だけ・・・覚えていてくれ!あとは・・・・お前のやるべき事をやれ!」

親父はそう言い残し、オストドと横に眠るめすとど1号の頭を撫でるとそのまま・・・消えていった。

「そろそろ・・・来るだろう・・・でもね。」

「なあに?」

「誰も俺らの朝飯の心配はしてくれてないだろうな・・・あはは」

「それだけ気が回るのはいないでしょ!あの中には・・・」

「だなぁ~腹減った。親父に線香をあげて何か買ってくるけど・・・」

「何でもいい・・・」

やはり、その予想は的中した。

お義理で後妻の弟夫婦が「お疲れ様でした・・・」と言ってはくれたが、やはり・・・・そこは

アウェーだったのだ。

喪主も葬儀委員長も式が始まる寸前にやってくるくらいだから、親父が哀れだった。

告別の儀が終わり、棺桶に眠る親父はまるで花畑に眠っている様だった。

何しろ、祭壇の花の数からいえば、親父が小柄で幸い?だったのかもしれない。

オストドなら、その半分も入りきれないことだったろう。

親父の顔の周りを白い菊で飾り、その上に幾重にも花が飾られて行く中で、オストドは必死に

親父の顔が花で埋まらない様に掻き分けていた。

「ご長男様・・・これを!」

それは、本当に最後の最後の1輪の花を、葬祭ディレクターの若い女性から、手渡された。

「親父・・・これでお別れだな!」そう呟きあふれる涙も拭わず、そっと親父の顔のそばに手向けた。

「それでは・・・そろそろ・・・」

親父の棺の蓋が閉められ、オストドの挨拶が始まった。それは戦いの宣言でもあった。

遺影をメストド1号に渡し、オストドは挨拶し始めた。

従姉に言わせると・・・

「K立派だったよ!紙を読まなきゃ・・・もっと立派だったけど。」

まあ、及第点だったのだろう。何しろ、オストドが挨拶しているときに、横に親父を感じていた。

親父も一緒に挨拶をしていたのだ。

「・・・しっかりやれ!」

オストドの耳の奥にそう告げて・・・・

― 誓い ― その2へ続く
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