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「やられたら・・・やり返す」第3章― 誓い ―その2 [血みどろ?の争い]

― 涙雨の中 ―

頭の中を何故か、あるメロディーが流れていた。

僕の遺族・親族の挨拶は、どんな評価を受けても、それは事実だし、終わってしまったことだから、

もうどうでもよい話だ。

僕は、人から見れば親不孝者と一言で片づけられても仕方がない生き方をしてきたし、

今更、その生き方を変えるつもりも、毛頭ない。

ただ、昨夜、親父に誓ったことだけは、日本オオカミの血に賭けてもやらねばならない。

外は、嵐の様だ。ただ、告別式にまでわざわざ多くの人々が集まってくれた。

これは、父の人柄だったのか?それとも、始まるであろう、相続じゃなく、争続の始まりを

見物しようと集まったのか?

そんなことはどうでもよい。今、僕はやることがある。

親父の遺影を持ち、貧相な棺の前に立ち、あらゆる魔物からその棺を守り、その朽ち果て

そして、多分、生前こんなに花等貰ったこともないであろう多くの花が供えられた親父を、

彷徨うことのない黄泉の国へ送り出さねばならない。

葬儀委員長が振り向き様に、後妻に話しかけた。

「前の奥さん(僕の育ての母で、別の男と駆け落ちしている)が入っているとか・・・」

「そんなはずはない!あたし・・聞いてないよ!」後妻は怒りが爆発していた。

僕は、不謹慎だけれど、それはそれで面白いかもしれないとさえ、思った。

何しろ、僕は母と言うものに恵まれていない。

生みの母は、僕産み捨てると、男とどこかへ行ったわけだし、本当の父でさえ、僕をまるで

ゴミの様に捨てた。そんなことはどうでもいい話で、いっそコインロッカーか川にでも捨てて

くれたほうが、僕は“しなくてもいい苦労”なんぞしなくて済んだと思う。

まあ、いっそのこと殺してくれた方が、僕にはどんなにありがたかったかもしれない。

育ての両親に何不自由なく育てられたのは、小学校3年生までで、僕はまたモノの様に、

育ての母親に捨てられた。その頃は恨んだりもしたのだが、今ではそれもどうでもよい話で、

僕の後ろには、僕を育てたことにより、しなくていいはずだった苦労や迷惑を散々かけてしまった

僕にとって、本当の父みたい。いや、それ以上に、僕を育ててくれた人が眠っている。

まあ、この親父の間違いがあったとすれば、僕の目の前で偉そうにふんぞり返り、弔問客にも

碌なあいさつすら出来ない。水商売上がりの女を家に引き込んだことぐらいだ。

僕は職業に貴賤はないと思っているが、目の前の人の皮を被った“餓鬼道の覇者”は、

親父がまだ存命中にこう僕にのたまったことがある。

「何十億も持っている様な話をしていたから、結婚してやったのにさ・・・」

これには、僕は開いた口が塞がらなかった。いや、いっそ始末してやろうかととも思ったが、

僕には守るべき人がいるので、そんな暴挙を犯さなかっただけだ。

「そろそろ・・・」

導師様を先頭にエレベーターまで親父の棺はストレッチャーに乗せられていた。

階下に降りると、そこからは、イトコと父の会社の若手の手によって、霊柩車へ運ばれ、

僕は遺影を持ち、霊柩車に続くハイヤーに、お導師様と葬儀委員長と共に乗り込んだ。

三台目・四台目は、イトコ達の車で、車いす組が運ばれ、最後にマイクロバスが続いた。

それでも、最後まで希望者全員は乗り込むことすら出来ず、まるで、僕の心の中の様に

嵐の中静かに、火葬場へ向け車列は進みだした。

火葬場へ向かう途中、親父が最後の時を過ごした病院の前を偶然通ることになった。

何でも、渋滞していたからだと言うが、僕はこんな病院つぶれてしまえ!と念じたのは、

言うまでもない話だ。

火葬場は、僕にとって三度目となる場所だった。

一度目は、叔父であり、僕が乳児の頃育ててくれた人で、二回目はイトコの嫁さん。

まさか、三度目が親父になるとは、思っていなかった。

ベルトコンベアー式に最後の読経と焼香が終わっても、僕はまだ控室にはいけない。

親父の棺に付き添い、火葬場の廊下を歩いていき、葬儀委員長のバカの言葉を借りれば、

1500度に達する炎の力により、その亡骸をこんがりと焼いてもらわねばならない。

親父の棺の上には、俗名g記入されたプレートが載かっており、いくつも並ぶ焼き場の

一番の窯の前で、その歩みが止まった。

「どうぞご確認ください!お名前あっていますか?」

「はい・・・」

ストレッチャに置かれた棺が窯に流し込む台に移された。

「最後にもう一度お顔を・・・・」

「いえ!結構です!散々見てきたから・・・さっさと・・・」

僕はまたスイッチがはいってしまった。こともあろうに、最後の最後くらい涙を流したらと思ったが、

親父をこれ以上惨めにしたくなかった。

「はい・・・」

僕はそう答えるしかなかった。何しろ、葬儀委員長でさえ、頷いているのだ。

「親父・・・ごめんな!」

僕はそうつぶやくと、棺は静かに窯の中へ入れられていったが、僕の目には涙があふれ、

その最後の瞬間を見ることができなかった。

「ち・・ちくしょう!」

「えっ?何か言った?」

「いや・・・」

僕は後悔の塊に今にも押しつぶされそうになった。

仇討はせねばなるまい。親父が極楽浄土へ行けるとするのなら、僕は餓鬼道に自ら進む。

そんなもので、親父の無念が晴らされ、極楽浄土で幸せな日々を送れるのなら、僕は自ら

餓鬼道に進んでも構わないもし・・許されるのなら、神様の許の雑用係でも、地獄めぐりの案内でも

なんでも構わない。

親父の亡骸が煙となり空へと昇ってゆく。僕は控室を抜け出すと、喫煙所へ歩んでいった。

「親父ぃ~これだけはやめられねえわ!」そう空に向かい呟いた。


「やられたら・・・やり返す」第3章― 誓い ―その3へ続く
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