僕たちに明日はあるのか?VOL4 [ぼくたちのシリーズ完結編]
- サプライズ 2-
僕は夢に魘されても、惰眠を貪っていた。枕元の電話が鳴る。
モーニングコールだ。
「う~ん。」多分、僕は5時間も眠っていない。いないけど、朝の散歩に出かける。
ナイアガラの朝は日中とは違い、僕を幻想の世界に誘う。
ガイド嬢に朝食券を上げているので、行きつけになりつつある2ドル99セントの
朝食を摂りながら、抱えているファイルを開く。
このファイルには、スケジュールは勿論、お客様情報も載っている。
「ったく・・・てめえらでツアコンだせっての・・・」
僕はつぶやいた。本当は今回のツアーは、ご褒美のはず。某国と某国の国境を
訪れるために、警察署へ行き、署長に賄いを渡し、
用心棒に一人。警察官を借りる。
賄いも。警察官への心づけは、700円くらいだが、武装警察官の同乗と、
この地に強い部族のガイドをさらに一名乗せている。ドライバー氏は、
元軍隊勤務の軍曹だったし、僕を含めガイド達も全員“武装”している。
くそ暑いけど、ジャケットの内側にホルスターをぶら下げ、
実弾が装填されている銃と、ポケットには、数十発分の弾丸が入っている。
その前日、僕はホテルへ到着すると、すぐ、ガイドに連れられ、
ブラッグマーケットで、僕はひたすら射撃訓練をさせられたのだ。
「いいか!撃ち合いになったら、撃て!」
僕はこの時、「くそぉ~騙された。危険手当って・・・このことか」と思った。
だから、担当のF氏は、僕に危険日当を2000円と旅行傷害保険の
死亡保険金が、3000万から1億円への増額、そして、
このカナダツアーが、ご褒美についたわけだ。
峠へ向かう途中、ゲリラかと思いたくなる。密輸商人から、
「心配するな!帰りにウチに寄れ・・・」と言われたのは、
不幸中の幸いだったのだろう。”彼の手配”で、撃ち合いにも
ましてや、皆殺しに合わずに、僕たちは隣国へ無断入国し、
そして、国境を跨いで写真撮影までしてきた。
そのご褒美だったのに、とんでもない。VIPがこのツアーには
参加されていた。
「いいかい!くれぐれも粗相は・・・」
粗相を心配するのなら、自分が行け!と怒鳴りたい気分だが、
チケットは既に僕の名前で発券されていた。
「大体さぁ~テレビ局のプロデュサーが何なんだ?」
僕は、ウエイトレスが注いでいったお代わりのコーヒーを飲んだ。
今日の予定は、朝一で、霧の乙女号に乗るのだけど、僕は乗らない。
あんなもの、1回乗って、ずぶ濡れになれば充分だ。
その後、ナイアガラ市内の観光を済ませ、一時間で一周するレストランで
お仕着せの昼食タイムとなる。僕は、階下のビュッフェレストランで、
ガイド嬢と「夜の打ち合わせ」をしながら、食事をすることになる。
その後、僕は多分、昼寝をしながら、トロント市内へ向かい、市内観光を
終え、ホテルにチェックインをし、夕刻、市内のレストランでロブスターの
ディナーを摂り、徒歩でホテルへ一旦、戻る。そして、希望者のみ高級?
リムジンの迎えを受け、日本人経営の毛皮屋でひと稼ぎさせてもらい、
お客様と共にCNタワーからの夜景にご案内することになっている。
明日は、また飛行機に乗り込みエドモントンと言う都市へ飛ぶ。
「さてと・・・ヤバッ!」腕時計は帰る時間を過ぎている。
僕は、ファイルを抱えホテルに向けてダッシュする羽目になる。
夜中に荷物は、ホテルスタッフの手により、回収されているので、
荷物をチェックしてバスに詰め込むために駆け出した。
「ったく・・・・あいつらまで来るとは・・・・」
はっきり言えば、このツアーは、ご褒美ではない。
何しろ、新婚さんの中に、佐々木クンご夫婦と白〇クン夫婦が居る。
僕と悪たれ連のうち、この二人を除く面々は、一日に二度も結婚式に
参列させられており、僕は知らなかったけど、出発地の成田空港で
僕は事実を知らされたのだ。その事実を知るまでは、
「同性同名っているんだな」とパッセンジャーリストを眺めていたのだ。
そこへ、某テレビ局のお偉いさんというプロデュサーもいる。
「踏んだり蹴ったりじゃぁ~」と叫ぶ。僕の姿がそこにあったのだ。
「どうしました?」ガイド嬢が尋ねてくる。
「別に・・・あっ!おはよう!」
「おはようございます。朝ごはん美味しかったです。」
「よかった!」
ガイド嬢も今晩は、トロントに一泊することになっているので、
小さなバックを積み込んだ。
「お客様の荷物は・・・」
「全部揃っている・・・・うん。大丈夫。」
そこへ新婚ホヤホヤの佐々木クンと白〇クンがやってきた。
勿論、白〇クンの奥さんは、昔。「神主のお兄ちゃん!」と
駆けてきた由香ちゃん2号なのだ。
「ったく・・・お前ら!いい加減にしてくんねんかな・・」
「いいじゃん!指名してやっているんだから、ありがたく・・」
「指名料もら・・あっ!いいこと考えた!」
建前は、いくら悪たれ連ノメンバーでもお客様。
億悪様と言えば、僕にカモにされても仕方がない。はずだ。
「なあ・・お前ら、今晩毛皮屋行くけど・・・一枚くらい」
「高いんだろ?」
「日本で買われる半分くらいのお値段でいかがでしょう!お・客・様!」
「でもな・・・」
「うちの子が飢えるんですけどねえ~」
「判った・・・買えばいいんだろ?」
「そういうこっちゃ・・・サクラ頼む!よ・・・この通り。」
僕は、二人を拝み倒した。何しろ、添乗員の給料はウソぉ~と叫びたく
なるくらい。安い。
まあ、年間300日くらいは、お金を払わず、飲み食いできる。
ついでに、つまみ喰いも勿論ある。まあ、身体を張っているわけだ。
添乗員を始めた頃は、日給で5千円。そして今は8千円。
まあ、「R」と言うリベートとお客様からいただくチップで命を繋ぐ。
「ところでさぁ~委員長!」
「だ・か・ら・・・何年言わせればいいんだ!バカ」
「悪い。お前メシ喰ったのか?」
「ああ・・・可愛いウエートレスが居る店でな・・・」
「汚ねえ~」と異口同音で二人が叫ぶ。
「おい!後ろで嫁さん睨んでいるぞ?」
「や・・・やば・・・」
「何の悪だくみしているのかな?神主の・・・」
「ゆ・・じゃなかった。お客様。今は添乗員でございます。」
「かしこまらなくてもいいじゃん。お兄ちゃん。」
「まあねえ~そういえば、毛皮のコート買ってくれるって!良かったね。」
「うん。」
「奥様方良かったですねえ~いいハネムーンになりますよ・・・・きっと」
「ちょっと・・・待っててくれる?こいつにカタ付けないと・・・」
奥さん方を置いて、二人に拉致される僕。
「コートはねえだろ・・・コートは・・・」
「大丈夫!安くさせるし。日本に帰ってからお支払いだから・・・」
「しかしよぉ~」とため息を付く二人。
「それとも・・・お前ら!成田離婚させてやろうか?どっちかがなれば・・・」
「なれば?」
「うん。丁度10・・・・いや、20組目っ!」
「寝言は・・・」
「寝言じゃないんだな・・・添乗員怒らせると怖いよ・・・」
「うっ・・・・」
「お前ら言葉通じないしな・・・」
「ぐっ・・・」
「テーブルマナーとか大丈夫か?」
「ほ・・・他の新婚・・・」
「ああ・・・心づけくれたお客様にはね。教えておいたけど・・・」
「えっ・・・いつ?」
「お前らが、機内で爆睡中だった。太平洋上空で!」
「起こせ!」
「何で?心づけ出さない客には、教える義理は・・・」
「出す!出せばいいんだろ。いくらだ?」
「そうねえ~ご両親が送りに来たカップルは、5万入ってたっけ・・」
「じゃあ・・・5万でいいだろ?」
「ええとぉ~毛皮のコートにストールあっ!ミンクで宜しくな!」
「んぐっ・・・・」
「あのな!お前ら同じ日に結婚式やりやがって・・・俺ら大赤字だ」
「わ・・」
「いやならいいんだけど・・ねえ。何しろ、給料少ないんで・・・」
「判った!ホレ!」
「なんだ用意してあったんじゃん・・さっさと出せっ!」
僕は二人から半ば強制的に心づけを奪った。
「ところで・・・白〇。お前。アレ予備あるか?」
「いや・・俺もお前に聞こうと思ったんだよ佐々木」
「あん?どうした・・・」
「委員長!どっか薬局ねえか・・・」
「ドラッグストアー。で?アレって・・・・アレか?」
「ああ・・お前。昨夜どこに居た!」
「部屋で寝てたな・・・大人しく。まあ、夜中に水漏れやったのもあったけど」
「お前の部屋行ったんだよ!貰おうと・・・」
「何時?」
「俺も行った。10時くらいだったか・・・」
「俺は9時半。お前は居なかった!」
「寝てた。」
「うそこけ・・いや。あのかわいこちゃんとか?」
「昨夜は一人。身体が持つわけねえだろ。」
「何で・・・」
「いいか?考えてもみろ!パキスタンから帰ってきて・・・」
「うん。」
「それで、お前らの結婚式をはしごする前に打合せと精算して・・」
「ああ!それで今日ここに居るんだぞ!ところで、昨晩はヤラなかったのか?」
「ま・・その・・・なんだ。結婚したわけだし・・・」
「そ・・そうだよ。別に要らなかったし・・・」
「じゃあ・・・要らないね。コレ・・・」
僕はドラエモンのカバン顔負けと自負する添乗用のパイロットケースから、
いかにも・・包んでますといった包装紙に包まれたアレを取り出した。
「あるのか・・・」
「まあねえ~。コレで成田離婚もあったくらいだし・・・」
「うそぉ~」
「いや、ホント・・お前ら、嫁さんに文句言ってねだろうな・・・」
「いや・・・つい・・・」
「うちも・・・」
「バカか!ったく・・・ホレ!これ持ってけ!1ダース入り」
「悪い・・・」
「大人しく毛皮買ってやらねえとしらないからな・・・」
「ああ・・判った!成田離婚じゃ・・・なあ!」
「ああ・・・仕方がない・・・か。」
「いいか。釣っちまった魚にもエサくらいやっておかねえと・・・」
「おかないと?」
「ジ・エンドだろ・・・きっと・・・今晩少し飲むか?」
「いいねえ~嫁同伴でいいか・・・」
「ああ!」
「ところで、何でこんなモン持っているわけ?」
「俺様が優秀だからかな・・・」
僕のパイロットケース。つまり、飛行機のパイロットが持っている
あのカバン。勿論、本物で某航空会社のお偉いさんの弱みと引き換えに
ありがたく頂戴したもの。その中に添乗7つ道具と「今度産むさん」を
リストと睨めっこして、数ダース入れ、ついでに、女性用のアノ日用の
用品まで入っている。ついでに言えば、睡眠薬とごまかすビタミン剤と
細菌性下痢止めから風邪薬まで一通り入っている。
「でも、何でこんなもん・・・」
「コレが成田離婚の主たる要因もあったので・・・」
「なるほど。」
「お前らくらいだ。恋愛組は・・・後はお見合い組だぞ」
「本当か?」
「ああ・・・ほぼ・・だな。」
話しながらホテルへ戻ると丁度、出発の一時間前で、
他のお客様がロビーへ降り始めていた。
「お前らチェックアウトしたか?」
「ああ・・・いや・・・まだ。」
「さっさとしろ!」
僕は二人を置き去りにすると、フロントデスクに駆けてゆく。
例のVIPだ。
「おはようございます。夕べは良くお休みになれましたか?」
こうして僕の忙しい日々が始まった。
僕は夢に魘されても、惰眠を貪っていた。枕元の電話が鳴る。
モーニングコールだ。
「う~ん。」多分、僕は5時間も眠っていない。いないけど、朝の散歩に出かける。
ナイアガラの朝は日中とは違い、僕を幻想の世界に誘う。
ガイド嬢に朝食券を上げているので、行きつけになりつつある2ドル99セントの
朝食を摂りながら、抱えているファイルを開く。
このファイルには、スケジュールは勿論、お客様情報も載っている。
「ったく・・・てめえらでツアコンだせっての・・・」
僕はつぶやいた。本当は今回のツアーは、ご褒美のはず。某国と某国の国境を
訪れるために、警察署へ行き、署長に賄いを渡し、
用心棒に一人。警察官を借りる。
賄いも。警察官への心づけは、700円くらいだが、武装警察官の同乗と、
この地に強い部族のガイドをさらに一名乗せている。ドライバー氏は、
元軍隊勤務の軍曹だったし、僕を含めガイド達も全員“武装”している。
くそ暑いけど、ジャケットの内側にホルスターをぶら下げ、
実弾が装填されている銃と、ポケットには、数十発分の弾丸が入っている。
その前日、僕はホテルへ到着すると、すぐ、ガイドに連れられ、
ブラッグマーケットで、僕はひたすら射撃訓練をさせられたのだ。
「いいか!撃ち合いになったら、撃て!」
僕はこの時、「くそぉ~騙された。危険手当って・・・このことか」と思った。
だから、担当のF氏は、僕に危険日当を2000円と旅行傷害保険の
死亡保険金が、3000万から1億円への増額、そして、
このカナダツアーが、ご褒美についたわけだ。
峠へ向かう途中、ゲリラかと思いたくなる。密輸商人から、
「心配するな!帰りにウチに寄れ・・・」と言われたのは、
不幸中の幸いだったのだろう。”彼の手配”で、撃ち合いにも
ましてや、皆殺しに合わずに、僕たちは隣国へ無断入国し、
そして、国境を跨いで写真撮影までしてきた。
そのご褒美だったのに、とんでもない。VIPがこのツアーには
参加されていた。
「いいかい!くれぐれも粗相は・・・」
粗相を心配するのなら、自分が行け!と怒鳴りたい気分だが、
チケットは既に僕の名前で発券されていた。
「大体さぁ~テレビ局のプロデュサーが何なんだ?」
僕は、ウエイトレスが注いでいったお代わりのコーヒーを飲んだ。
今日の予定は、朝一で、霧の乙女号に乗るのだけど、僕は乗らない。
あんなもの、1回乗って、ずぶ濡れになれば充分だ。
その後、ナイアガラ市内の観光を済ませ、一時間で一周するレストランで
お仕着せの昼食タイムとなる。僕は、階下のビュッフェレストランで、
ガイド嬢と「夜の打ち合わせ」をしながら、食事をすることになる。
その後、僕は多分、昼寝をしながら、トロント市内へ向かい、市内観光を
終え、ホテルにチェックインをし、夕刻、市内のレストランでロブスターの
ディナーを摂り、徒歩でホテルへ一旦、戻る。そして、希望者のみ高級?
リムジンの迎えを受け、日本人経営の毛皮屋でひと稼ぎさせてもらい、
お客様と共にCNタワーからの夜景にご案内することになっている。
明日は、また飛行機に乗り込みエドモントンと言う都市へ飛ぶ。
「さてと・・・ヤバッ!」腕時計は帰る時間を過ぎている。
僕は、ファイルを抱えホテルに向けてダッシュする羽目になる。
夜中に荷物は、ホテルスタッフの手により、回収されているので、
荷物をチェックしてバスに詰め込むために駆け出した。
「ったく・・・・あいつらまで来るとは・・・・」
はっきり言えば、このツアーは、ご褒美ではない。
何しろ、新婚さんの中に、佐々木クンご夫婦と白〇クン夫婦が居る。
僕と悪たれ連のうち、この二人を除く面々は、一日に二度も結婚式に
参列させられており、僕は知らなかったけど、出発地の成田空港で
僕は事実を知らされたのだ。その事実を知るまでは、
「同性同名っているんだな」とパッセンジャーリストを眺めていたのだ。
そこへ、某テレビ局のお偉いさんというプロデュサーもいる。
「踏んだり蹴ったりじゃぁ~」と叫ぶ。僕の姿がそこにあったのだ。
「どうしました?」ガイド嬢が尋ねてくる。
「別に・・・あっ!おはよう!」
「おはようございます。朝ごはん美味しかったです。」
「よかった!」
ガイド嬢も今晩は、トロントに一泊することになっているので、
小さなバックを積み込んだ。
「お客様の荷物は・・・」
「全部揃っている・・・・うん。大丈夫。」
そこへ新婚ホヤホヤの佐々木クンと白〇クンがやってきた。
勿論、白〇クンの奥さんは、昔。「神主のお兄ちゃん!」と
駆けてきた由香ちゃん2号なのだ。
「ったく・・・お前ら!いい加減にしてくんねんかな・・」
「いいじゃん!指名してやっているんだから、ありがたく・・」
「指名料もら・・あっ!いいこと考えた!」
建前は、いくら悪たれ連ノメンバーでもお客様。
億悪様と言えば、僕にカモにされても仕方がない。はずだ。
「なあ・・お前ら、今晩毛皮屋行くけど・・・一枚くらい」
「高いんだろ?」
「日本で買われる半分くらいのお値段でいかがでしょう!お・客・様!」
「でもな・・・」
「うちの子が飢えるんですけどねえ~」
「判った・・・買えばいいんだろ?」
「そういうこっちゃ・・・サクラ頼む!よ・・・この通り。」
僕は、二人を拝み倒した。何しろ、添乗員の給料はウソぉ~と叫びたく
なるくらい。安い。
まあ、年間300日くらいは、お金を払わず、飲み食いできる。
ついでに、つまみ喰いも勿論ある。まあ、身体を張っているわけだ。
添乗員を始めた頃は、日給で5千円。そして今は8千円。
まあ、「R」と言うリベートとお客様からいただくチップで命を繋ぐ。
「ところでさぁ~委員長!」
「だ・か・ら・・・何年言わせればいいんだ!バカ」
「悪い。お前メシ喰ったのか?」
「ああ・・・可愛いウエートレスが居る店でな・・・」
「汚ねえ~」と異口同音で二人が叫ぶ。
「おい!後ろで嫁さん睨んでいるぞ?」
「や・・・やば・・・」
「何の悪だくみしているのかな?神主の・・・」
「ゆ・・じゃなかった。お客様。今は添乗員でございます。」
「かしこまらなくてもいいじゃん。お兄ちゃん。」
「まあねえ~そういえば、毛皮のコート買ってくれるって!良かったね。」
「うん。」
「奥様方良かったですねえ~いいハネムーンになりますよ・・・・きっと」
「ちょっと・・・待っててくれる?こいつにカタ付けないと・・・」
奥さん方を置いて、二人に拉致される僕。
「コートはねえだろ・・・コートは・・・」
「大丈夫!安くさせるし。日本に帰ってからお支払いだから・・・」
「しかしよぉ~」とため息を付く二人。
「それとも・・・お前ら!成田離婚させてやろうか?どっちかがなれば・・・」
「なれば?」
「うん。丁度10・・・・いや、20組目っ!」
「寝言は・・・」
「寝言じゃないんだな・・・添乗員怒らせると怖いよ・・・」
「うっ・・・・」
「お前ら言葉通じないしな・・・」
「ぐっ・・・」
「テーブルマナーとか大丈夫か?」
「ほ・・・他の新婚・・・」
「ああ・・・心づけくれたお客様にはね。教えておいたけど・・・」
「えっ・・・いつ?」
「お前らが、機内で爆睡中だった。太平洋上空で!」
「起こせ!」
「何で?心づけ出さない客には、教える義理は・・・」
「出す!出せばいいんだろ。いくらだ?」
「そうねえ~ご両親が送りに来たカップルは、5万入ってたっけ・・」
「じゃあ・・・5万でいいだろ?」
「ええとぉ~毛皮のコートにストールあっ!ミンクで宜しくな!」
「んぐっ・・・・」
「あのな!お前ら同じ日に結婚式やりやがって・・・俺ら大赤字だ」
「わ・・」
「いやならいいんだけど・・ねえ。何しろ、給料少ないんで・・・」
「判った!ホレ!」
「なんだ用意してあったんじゃん・・さっさと出せっ!」
僕は二人から半ば強制的に心づけを奪った。
「ところで・・・白〇。お前。アレ予備あるか?」
「いや・・俺もお前に聞こうと思ったんだよ佐々木」
「あん?どうした・・・」
「委員長!どっか薬局ねえか・・・」
「ドラッグストアー。で?アレって・・・・アレか?」
「ああ・・お前。昨夜どこに居た!」
「部屋で寝てたな・・・大人しく。まあ、夜中に水漏れやったのもあったけど」
「お前の部屋行ったんだよ!貰おうと・・・」
「何時?」
「俺も行った。10時くらいだったか・・・」
「俺は9時半。お前は居なかった!」
「寝てた。」
「うそこけ・・いや。あのかわいこちゃんとか?」
「昨夜は一人。身体が持つわけねえだろ。」
「何で・・・」
「いいか?考えてもみろ!パキスタンから帰ってきて・・・」
「うん。」
「それで、お前らの結婚式をはしごする前に打合せと精算して・・」
「ああ!それで今日ここに居るんだぞ!ところで、昨晩はヤラなかったのか?」
「ま・・その・・・なんだ。結婚したわけだし・・・」
「そ・・そうだよ。別に要らなかったし・・・」
「じゃあ・・・要らないね。コレ・・・」
僕はドラエモンのカバン顔負けと自負する添乗用のパイロットケースから、
いかにも・・包んでますといった包装紙に包まれたアレを取り出した。
「あるのか・・・」
「まあねえ~。コレで成田離婚もあったくらいだし・・・」
「うそぉ~」
「いや、ホント・・お前ら、嫁さんに文句言ってねだろうな・・・」
「いや・・・つい・・・」
「うちも・・・」
「バカか!ったく・・・ホレ!これ持ってけ!1ダース入り」
「悪い・・・」
「大人しく毛皮買ってやらねえとしらないからな・・・」
「ああ・・判った!成田離婚じゃ・・・なあ!」
「ああ・・・仕方がない・・・か。」
「いいか。釣っちまった魚にもエサくらいやっておかねえと・・・」
「おかないと?」
「ジ・エンドだろ・・・きっと・・・今晩少し飲むか?」
「いいねえ~嫁同伴でいいか・・・」
「ああ!」
「ところで、何でこんなモン持っているわけ?」
「俺様が優秀だからかな・・・」
僕のパイロットケース。つまり、飛行機のパイロットが持っている
あのカバン。勿論、本物で某航空会社のお偉いさんの弱みと引き換えに
ありがたく頂戴したもの。その中に添乗7つ道具と「今度産むさん」を
リストと睨めっこして、数ダース入れ、ついでに、女性用のアノ日用の
用品まで入っている。ついでに言えば、睡眠薬とごまかすビタミン剤と
細菌性下痢止めから風邪薬まで一通り入っている。
「でも、何でこんなもん・・・」
「コレが成田離婚の主たる要因もあったので・・・」
「なるほど。」
「お前らくらいだ。恋愛組は・・・後はお見合い組だぞ」
「本当か?」
「ああ・・・ほぼ・・だな。」
話しながらホテルへ戻ると丁度、出発の一時間前で、
他のお客様がロビーへ降り始めていた。
「お前らチェックアウトしたか?」
「ああ・・・いや・・・まだ。」
「さっさとしろ!」
僕は二人を置き去りにすると、フロントデスクに駆けてゆく。
例のVIPだ。
「おはようございます。夕べは良くお休みになれましたか?」
こうして僕の忙しい日々が始まった。
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