SSブログ

僕たちに明日はあるのか VOL15 [ぼくたちのシリーズ完結編]

-ラストフライト1-

泣いても、笑ってもと言うのは、こういうことを言うのかもしれない。

夕方から夜間にかけて飛ぶのは、これが初めてで、もしかしたら

もしかするかもしれない。

ケビンは、「ユーの腕だったら大丈夫!」とは言ってくれたけど、

本当に上がってもいいのか?

自問自答しながら、「乗れ!」と言われて、ついキャプテンシートに

乗り込んでしまったけど、疑問が渦巻く。

コーパイ席では、ケビンがてきぱきとチェックを行い、

ついでにクリアランスを要求している。

「OK!シン・・・GOだ。」

その声に釣られて、僕はスロットルを押し込んでゆく。

「レフトサイドクリアー」と僕が言えば、ケビンは

右サイドを確認して「ライトクリアー」と言う。

昼間の訓練では判らなかったけど、今、僕の前には

夕闇が迫る滑走路が続いていて、まるで誘蛾灯の様に

目の前に光のラインが続いている。

その美しさに見とれていたら、いつの間にかクリアランスが

出ていた。

「ランウエイヘッディング!テイクオフ!」ケビンが叫ぶ。

僕は我に返り、スロットルを更に押し込んでゆく。

「V1・・・・ローテーション・・・・」

ふわりと機体が持ち上がり、1地番星が輝く空に向けて操縦桿を引く。

「セスナ・・・・フライトレベル・・ヘッディング240・・・・」

トレーニング用の空域へ向かう。

「アイハブ。シン!女神が何か言いたそうだ。」ケビンガウインクして見せる。

「ユーハブ」僕はそう答えて、操縦桿から手を放し、ヘッドセットを外した。

「なに?」

「あのね。赤ちゃん」

「聞こえないよぉ~大きな声で言って!」

「あのね。赤ちゃんできた!」

「へっ・・・」

暫く。僕の思考回路は予期しない。いや、正確には「こんなところで言うか?」

もっと言えば、僕がはるばるここまで来た理由はそもそも・・・

そう。そもそも・・・優子が別れ話を切り出したから。

そして、僕は深い海の底に眠る貝になるべく、フェリーに乗りこんだら、

お節介ものジュニアと殴り合って・・・そして、今トレーニングは積んだけど、

口頭試験で失敗して、ライセンスが取れなくて、ワンモアチャンスもなく、

今、ラストフライトの操縦桿を握っているわけで・・・

僕の頭の中をここ最近の出来事が、グルグルと廻っているわけで、

でも、赤ちゃんが出来たってつまり、それが別れ話の原因だとすれば、

僕の子ではないのかもしれない。

枠の脳細胞は、そう結論を出した。

「よ・・・良かったじゃん!」

「あ・・・ありが・・・」

「幸せに・・・・」

そこへミサが口をはさんできた。

まあ、身さが口を挟んでくれなければ、相当な修羅場になっていたはずだ。

僕の頭の中は、すっかり、優子は別の誰かと・・・となっていたわけで、

僕と優子の間の子とは全くと言っていいほど、考えていないのを

感じ取っていたらしい。

「あのね。誰の子だと思うわけ?」

「そりゃあ人の子だよね。犬や猫じゃあるまいし・・・・」

そういった瞬間。僕の目の前には火花が飛んでいた。僕は後頭部を思い切り

殴られていた。

「あのね・・・」僕は頭をさすっていた。

「何よ・・・」

「端折られて言われても・・・判らないよ!」

ミサの説明によれば、優子のお腹の中の子は、正しく僕の子だという事。

僕がまだ。退学届けは出したけど、高校生なので、優子は一人で産んで

育てるつもりだったこと。

それをみんなに言わないものだから、横浜のママをはじめとする

お姉さんたちが、優子に真意を聞き出し。僕はそこのところは、違うと思う。

強引に口を割らせた方が正しいと思ったけど、黙って聞いていた。

「な・・・なんで・・・・ど・・・どうして・・・」

そういうのが精一杯だった。

これで、僕の中ではすべての疑問が繋がった。

佐々木クンが美希に言われた。「誤解」そして、今ここに集結している

社会関係奉仕部の面々と巫女’s。そして、ついでに兄さん。

「優子・・・本当?」

「うん・・・・迷惑なら・・・・」

「迷惑なわけないっしょ・・・パパか・・・いいね。嬉しい!」

僕には本当の家族は今までいなかった。

僕は夢を見ているのだろうか?

思い切り頬を自分で抓ろうとした瞬間。

僕の後頭部はあり得をしない方向。つまり、さっき助け出した

兄さん事。学年主任に思い切り殴られて・・・・

「痛ぇ~」となったわけだ。

「ケビン!アイ・・・ハブ!」

「OK!ユーハブ」

僕は、トレーニングエリアからの離脱許可と同時に出たナイトクルーズへの

コースに向けて、優雅かどうかは知らないけど、嬉しさとちょっとの不安。

そして、地上に降りたらの手厚いであろう袋叩きを覚悟しながら、バンクを切った。

-ラストフライト2-へ続く
nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:お笑い

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。