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僕たちに明日はあるのか?VOL3 [ぼくたちのシリーズ完結編]

-サプライズ 1-

ツアーコンダクターの一日は、滅茶苦茶に始まる。

例えば、朝に帰ってきて、お仕事が完了し、そして夜

また、新しいお客様を連れて飛ぶと二日分の日当を得る。

僅か、数時間で二日分稼げるときもあれば、27時間労働もある。

例えば、成田空港を12時に飛ぶとして、お客様の集合時間は、

2時間前の10時なのだが、気の早いお客様は、9時に来ることも

しばしば起こる。

会社からは、国際線出発なら、2時間前。国内線出発なら、1時間前

これは、お客様集合時間の前。だから、僕は8時には空港でスタンバイする。

そうなると、逆算すると、8時にたどり着くためには、始発バスに乗る。

国際線に乗り込んで、14時間。乗り換えで4時間。そこから、約2時間の

フライトを経て、僕は地球の裏側に居ることもある。

でも。それだけでは終わらない。空港でおよそ1時間ないし2時間かかり、

そこから、バスで2時間ほど。ヘトヘトになり、ナイアガラの滝近くの

ホテルに居ることもある。それでも、まだ、その日は終わってないので、

夕食にご案内して、ベッドを出てから30数時間ぶりにベッドに倒れこむ。

一人かどうかは別にしても睡魔は襲う。夢の中で電話が鳴る。

トロントの毛皮屋の社長に違いない。

「明日!宜しく・・ね!」

ふざけるな!と怒鳴りたくなるのだけど、R(リベート)の割がいいので、

愛想よくしておく。何しろ、売り上げの15%を税金のかからないお金が、

懐に飛び込んでくるので、美味しい仕事なのだ。

「リムジンでしょ?」

会社が用意しているバスは使えない。毛皮屋に高級リムジンを用意させ、

CNタワーの夜景ツアー無料ご招待と称して、毛皮屋へ連れていき、帰りに

ガイド嬢と一緒お客様を連れて展望台へ登ればよい。

勿論、ガイド嬢にもお小遣いを渡し、口止めは必要だけど・・・

「はいはい・・判りました。行けばいいんですよね。」

「うん。」

「会社からは、契約解消で寄らなくてよいと言われていますけど・・・」

「15いや・・20でいいでしょ?」

「お土産くれるかな・・・連れていくにしても・・・」

「何個?」

「お客様全員分。そうだ・・・あの、ミンク製の犬・・・」

「あれでよければ・・・用意するよ!」

「じゃあ・・明日。8時に来てください!」

これで商談は成立。売り上げの20%。お客様には、一個5000円のぬいぐるみを

プレゼント。おまけに高級リムジンでツアーに含まれていない夜景までオマケ。

悪い話ではないはずだ。折角、トロントくんだりまでわざわざ来ているのだから、

寝る時間を削っても、CNNタワーから眺める夜景は綺麗だし、ロマンチックな

気分に浸ってもらえばいい。お客様全員分の犬のぬいぐるみは、僕にもちょと

役得になる。4人家族でも二人でも1個上げるだけだから、僕の手元には、多い時で

10個ほど残る。これは、見込み客の「お姫様」と呼ばれるお姉さま方へのお土産。

正しく、一粒で二度おいしいことになる。

僕に指名をくれるお姉さま方のうち、上客と呼んでいる「お姫様」には、ミンクの

ショールを貰ってゆくこともあるけど、お姉さま方が毛皮のコートを買うときは、

毛皮屋の親父さんが、日本で営んでいるお店に紹介するのだから、このくらいの

役得は既に織り込まれているのだろう。まあ、お金の出所は僕の知ったことではない

多分、一流企業のスケベ親父に出させているのだろうけど、僕にとってお金に色は

ついていない。

「明日もがんばりましょ・・・」そう呟くと、僕は眠りにつくことになる。

明日は、ナイアガラの滝名物の「霧の乙女号」に乗り、花時計を眺めたりしながら、

昼食は、ナイアガラの滝を眼下に眺めながらの回転レストラン。

あんまり美味しくないので、僕はガイド嬢ときっと階下のビュッフェを食べに行く。

僕の分で二人分のご飯に代えてもらえるので、変更を頼んである。

ついでに、明日の朝ご飯のチケットもガイド嬢に上げてしまったので、僕は朝霧の中

早朝散歩とシャレ込み。地元の人に紛れ込んで、2ドル99セントの朝食を食べるのだ。

パンケーキにメープルシロップをたっぷりとかけ、ターンオーバーで焼き上げた目玉焼き

そして、カリカリに焼いたスモークの効いたベーコンとコーヒー。これで充分だ。

そんなことを考えていると、ベッドサイドの電話がまた鳴る。

「また・・・か・・・」と一瞬僕の頭を横切る。

僕も30数時間ぶりなら、お客様もほとんど同じなわけで、バスにお湯を張っているうちに

階下に溢れさせてしまうことも起こりえる。

カナディアンイングリッシュに寝不足の僕の頭はきつい。何しろ、僕の英語は碌な習い方を

していなかった。誰にどう習ったのかはさておき、僕の英語は殆どブロークンイングリッシュ

こういう時には役に立ったためしはない。何しろベッドで寝ながら覚えた英語は、あまりに

ヒドイ英語に決まっているからだ。

フロントに呼び出され、降りてゆくと、「やはり」である。

「やはり」をやらかしたお客さんが、小さくなっている。

「海外旅行保険はご加入いただいておりますよね?」

「はい・・・」

「ちょっとお見せいただけますか?」

大抵、個人賠償責任がついているので、保険会社とホテル側の話し合いで済む。

「大丈夫ですね・・・保険使えますから・・・」

僕は恐縮するお客さんを制すると、フロントへ交渉に向かう。

まあ、階下の宿泊者には、気の毒だけど、僕はツアーのお客さんを守る義務がある。

「よう!くそったれ・・・」僕は精一杯の笑顔で話しかける。勿論の日本語だから、

まず、彼らにはわからない。まあ、判ったとしても気にしないのが、僕のスタイル。

何しろ、ツアーコンダクターの営業時間は、朝8時から夜8時までだから、時間外

それも、30数時間ぶりのベッドから、引きずりだされた恨みもある。

毎度のこととばかりに、保険会社へ連絡させ、諸手続きを終える。

「これで大丈夫ですので、お休みください!」とお客様を部屋へ送る。

大体、こういうお客様からは、出発時に「心づけ」なるものをいただいている。

お部屋に送り届けると、僕は貸し借り表を作成する。こういうお客様こそが、

リピーターとして、指名をいただけることが多いのだ。

「明日・・買ってもらおう!毛皮・・・」とつぶやいて、僕はまたベッドに潜り込む。

「まあ・・・平和だよな!今回は・・・」とつぶやくこともある。

僕にとっての「平和」とは、「アプライズ」があるかどうかで決まる。

Sさんの紹介のヤーサンの旅行の方が、「サプライズ」よりはましだ。

僕の添乗員生活は、とある会社に入った時からだった。

その会社は、あちたこちらの旅行会社へ添乗員を派遣する会社だった。

だから、今日はA社明日はT社そして一週間後には、K社の添乗員として

あちらこちらを渡り歩くのが仕事だった。

忘れられないのが、「バスが事故ったら、お客様を全力で救出しろ」だの

マスコミが来る前にお客様から、旅行会社名が特定できる全てのモノを

回収しろだの。燃え盛るバスの中に飛び込めだの。

いざ、事故があれば僕は、きっとこの世には存在しないことになる。

まあ、仮に助かっても、お客様に犠牲者が出れば、現場責任者として

それなりのペナルティー。何でも、業務上ナントカというらしいが、

塀の中に押し込まれる可能性があるという研修を、「嫌!」と叫びたくなる

くらい、研修三昧の日々を過ごし、期待と戸惑いとちょっとした投げやり気分で

初日を迎えた添乗初日の朝のことだった。

この日は、「日帰りツアー」で、小田原の梅園出かけるツアーだった。

お客様は、フル。40名様。先輩が1号車をそして、僕は2号車の担当。

ついでに言えば、別の場所からの出発もあるので、総勢13台のツアーだ。

「あと・・一組。12名様で終わりなんだけど・・・」

先輩の1号車は、既に定刻15分前には、出発してしまった。

僕は焦りと「ノーショー」つまり、「現れないお客様」の

準備を始めねばならない。

そんな時だった。

「よぉ!待たせたな・・・」と久しぶりに佐々木クンが僕の前に現れた。

「て・・・てめぇ~」と言いかけたとき、僕にとって不運な一日が、

始まろうとしていた。

何故なら、僕が出かける時には、揃って見送っていたはずの、リリーズ。

そして、悪たれ連のメンバー。

特に青〇クンは、このためにわざわざ仏教大学から抜け出し、

わざわざ、新幹線でやってきたのだ。

リリーズ2名。青〇・Y・白〇・佐々木。そして、変態小児科に同じく変態

産婦人科を目指している。悪たれ連ドクター見習いの2名。

「あのさ・・佐々木!」

「あん?」

「12名だろ・・・残りは?4名。」

「そろそろ来るだろ?ションベンに行っている。」

「あのね。お化粧直しでしょ・・・」美希はまだ、先生気取りらしい。

美希は、僕のせいで、学校から、追い出されたのに、まだ、先生なのだ。

「ま・・さ・・か・・・」と僕が言いかけたとき、

「お待たせぇ~」とカオリさんを先頭に四名の巫女’s。正確には元巫女’sが

飛び込んできた。

「やはり・・・」

僕は呪われていた。いや、元をただせば、僕から「情報」を聞き出した。

相変わらずの「ナンカ妖怪」いや、妖艶なリリーズの二人の、笑い声が

そこには、響き渡っていた。

「あはは・・・なるほど・・ね。」

僕とジュニアは、僕のフライトに合わせて、空港のバーでビールを

ラッパ飲み競争を終え、バーボンの入ったグラスを傾けていた。

「酷い話だろ?俺・・・初っ端から怒られまくってさ・・・」

「まあな。でも、あいつららしい。」

「ついでに言わせてもらうと、お前も参戦していたよな・・・」

「ああ!偶々・・でいいんだけ?日本語?」

「まあ・・合っている様な、無い様な・・・」

「こっちに来る前にお前に会いたっかたし」

「まあ、負け組は、ご挨拶にくるのが礼儀だしな・・」

「くそぉ~てめぇのラッキーパンチ食らわなきゃ・・・」

「反対だって言いたかったのか?船から落としても良かったんだが?」

「どういう意味だ。」

「お前を海に投げだして、サメのエサにすれば良かったかと・・・」

「でも、お前はしなかったな。」

「お前もな・・・もう一杯飲めるかな?」

「ああ・・・そうだ。チェックインしておいたぞ!ホレ!ボーディング。」

「サンキュー。ジュニア。」

僕は受け取ったボーディングを眺めた。いつもの色ではない。

僕が乗る予定のJ〇Lは、クラス毎に色分けされた帯で乗るクラスが判る。

「お・・・おい。ジュニア・・・これ・・・・」

「ああ!エコノミー満席だったんで、ガールハントついでに、切り替えといた」

「あの・・な。俺のチケット。エージェントディスカウントの・・・」

「知っている。まあ、俺様にかかれば、ちょろいもんだ。」

僕は、格安だったはずのから、プラチナいやそれ以上に化けた。

ファーストクラスのボーディングパスを拝むと、上着のポケットに、

一緒に受け取ったパスポートに挟み込みしまった。

「それより、並ばなくていいんだから、もう一杯遣ろう!」

「ああ・・・」

僕はこの時、この日がジュニアと飲み明かす最後になるとは、

知らなかった。

機上の人となった僕は、彼が不時着で、足を損傷して入院。

そして、アフィアの女としらず、ガールハントして、そのマフィアに

撃ち殺されたことを知ったのは、彼の死後。一か月が過ぎたころに、

会社のメールボックスに紛れていた一通のエアーメールと、同じ頃に

届いた最後に飲んだバーボンだった。

その日の夜。久しぶりに泥酔した僕の夢の中にジュニアが現れた。

「おい!ぶちょぉ~」

「部長じゃねえて・・言っているだろ。このデコスケ。」

「美味い日本酒飲みたいな・・・あれ!かんぱいだっけ?」

「寒梅だろ。」

「そうだった・・・日本語。むずかしいね。」

僕は、次の日。ジュニアい会うべく、休暇をもらい。彼や彼の父親が

眠っているミルウォーキーへ行くべく機上の人となった。

勿論、ジュニアが飲みたがっていた寒梅を旅の道連れとして・・・・

-サプライズ2-に続く。





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