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僕たちに明日はあるのか?VOL7 [ぼくたちのシリーズ完結編]

-遥かなる航路 1-

その日。僕は全てを投げ出していた。

いや、逃げ出していたのかもしれない。佐々木クンにだけ、

「学年主任にコレ!渡しておいてくれ」と一書き添えた封筒を

わざわざ郵便で送るために、ポストに投函した後、僕は紗栄子の店に顔を出した。

「ちょっとだけ・・・いいかな?」

「いいも悪いもないわ!ベッドに行く?」

「後でね・・・ちょっと電話借りるよ。悪いけど・・」

「じゃあ!お買い物に行ってくるね。美希も来るの?」

「多分、来るんじゃない!俺が居なければ内緒にしてくれる?」

「いいけど・・条件次第かな?」

紗栄子は僕に身体を擦り付けて、キスを迫ってきた。

まあ、「旅立ち前」に悪くはない。

「ちょっと夜出かけるんでそれまでなら・・・」

「何か美味しいモノ・・・買ってくる!あっ!」

「何?」

僕の手は本人の意思とは関係なく紗栄子の身体を弄っていた。

「あのさ・・・買い物前に一回!」

「いいね・・」

僕はお店のカウンターで紗栄子をノックアウトしたのが、まだ、お昼前だった。

「洋食屋さんでいいでしょ?今日は臨時休業にしちゃおう。」

「夜に出かけるんだよ・・・」

「いいの!」

タバコを咥え、勝手知ったるカウンター内に入り、コークハイいや・・正確には

コーラはほんの少しで、たっぷりとウイスキーを注いだグラスを片手に、紗栄子の

身支度いや正確に言えば邪魔をしながら、紗栄子を弄っていた。

「30分で帰るからね。」そう言うと、紗栄子は僕が窒息死するんじゃないかと思う

くらい長い間僕の口を塞いでいた。

紗栄子が出ていくと、僕はとある所に電話をしていた。

僕のミスと言えば筆圧が強かった。メモには、僕のその後の行動が示されていた。

とあるところ。つまり、船会社に目的の船に乗れるか?問い合わせていた。

東京港を出港して那覇までの船旅。いや、片道切符の行く当てのない。

死に場所を求める死出の旅と言えばいいのかもしれない。

その日。僕はいつもの迎えを待っていた。

やってきた優子の車は、僕にとって、初めて居心地が悪かった。

「あにね・・・ちょっと話があって・・・」

「いいけど・・何?」

僕は座り心地が悪かった姿勢を直していた。その後に続く言葉が、

僕のために付かれた?だとは思わないで・・・

優子の話を聞いた僕は、咄嗟に叫んだ。

「優子!車止めて・・・電話してくるから・・・忘れていたことがある。」

そして、僕は電話ボックスめがけて走り出した。けど、電話ボックスに入り、優子が

目を離したその瞬間を待って、僕は雑踏の中に逃げ込んだのだ。

「判りました。出航は夜で・・手続きは1時間前から・・・」電話を切った途端

ドアを開けて紗栄子が帰って来た。

「お帰り・・・」

「良かった・・・」

「何が?」

「もう居ないかと・・・」

「どこかに行くの?」

「行かない!まだ・・約束果たしてないもん!ゴハンは?」

僕は少しだけ嘘をついた。今晩の出航ではなく、明日の出航になっていたから、

今晩は紗栄子の所に居て、明日。早朝に逃げ出そうと決めていた。

「1時間くらいかかるらしいわね・・・いつもの飲む?」

紗栄子が買ってきたのは、赤まむしドリンクとユンケルの組み合わせが、入った袋と

「コレ!飲んだら大丈夫かな?」と思うくらいの、「マムシとスッポンの粉」だった。

「えへっ[黒ハート]今夜は臨時休業しましょ!美希は来るかもしれないけど・・・ね![黒ハート]

まあ、これから先、嫌と言えるくらい眠れるだろう。僕はコクンと頷き、

それ等を一気に飲み込んだ。

「うへ~こ・・粉が・・・」

「はい!お水!」

差し出されたグラスの水を飲み干した。

「ねえ~ピアノ弾いて[黒ハート]

「了解!」

僕はこの店で初めて弾く曲を弾いた。それはせめてもの紗栄子に対して

お別れを告げる曲でもあった。

多分、紗栄子が僕の事を全部知ったときには、僕は多分。存在しない。

そんな思いを込めた。

「何か悲しい曲ね[黒ハート]でも・・・」

「でも、アタシもこんな風に死にたい。アナタの腕の中で[黒ハート]

そして、次の朝。静かに眠りについている。紗栄子と美希にそっと別れのキスをすると

早朝の街に出た。

「あっ!アノヤロー大丈夫かな・・・」

僕は電話ボックスに飛び込むと、佐々木専用の電話番号を回した。

眠そうな声で電話にでてきた。

「あっ!佐々木!悪いけど‥お前宛に郵便送っておいたから、学年主任に渡してくれ!」

一方的に僕はそれだけ告げて、電話を切ろうとした。

「ちょ・・ちょっと待て!お前何処にいる?」

「なんで・・・」

「何かあったか?」

「何もない。今夜ちょっと出かける。」

「出かけるってどこだ?」

「今は言えないな!後で連絡・・・」

「会えねえか!」

「お前。今日ガッコーだろ?」

「バカか・・今日は休み!」

「そうだった。」

「どこに居る?」

「浜松町に向かってる」

「浜松町?飛行機か・・・」

「まあ、そんなもん。」

「じゃあ!新橋のSL前!12時でどうだ。」

「判った!」

僕は佐々木君にだけは、全てを話すつもりだったもかもしれない。

まあ、悪たれ連こと社会関係奉仕部の事も仲間たちの面倒も頼まなければ、

「どこか知らない所」へ行くにしても、最低限伝えることが義務だと考えた。

新橋の駅前広場。SLが見える喫茶店で僕は、SLの前を見ていた。

佐々木クンだけなら、僕は姿を現し、そうでなければ、喫茶店で書いた

別れの手紙を投函して、僕は旅立つことにした。

12時ちょっと前に佐々木クンが現れた。どうやら、一人らしい。

「よう!」僕はコインロッカーに「怪しまれないための荷物」を放り込んだ後、

佐々木クンに歩み寄った。

「おう!メシ食ったか?」

「ああ・・・さっきな。」

「俺も喰った。サテンでも行くか・・・」

「どこに行く?」

「ウチの店あんだよ・・・そこでいいか・・・」

「お前の所。どんだけ商売するんだ?」

「知るか・・・今度は、フーゾクも始めるとか。」

「いいねえ~お前の親父らしいわ!」

「あのさ・・出かける寸前に・・」

「あん?」

「美希先生から電話あったけど・・・お前知らねえかって・・・」

「散々ノックダウンしたんだけど・・・」

「昼間から言うかぁ~」

「おかげでヘロヘロなんだけど・・・」

「ほれ!」

佐々木クンが渡してきたのは、「いつものセット」そして・・・

「ほれ!おまけ!」

「なんだこれ?」

「何でもお袋のところ・・・」

「あのラブホ・いや・・連れ込み」

「どっちでもいいや。そこで売るんだと・・・まあ、効くかどうか確かめねえと」

「良心的だねえ~って・・・俺モルモットか?」

「お前が一番じゃねえのか・・・少なくとも、お前は金払わないでヤレるし・・・」

「うんうん。お前らは、金使って。センコーに見つかるし・・・」

「思い出させるなっ!」

「ついでに・・リンちゃんだもんな・・・」

「殴るぞ!・・・」

「そんで、何だって?」

「居場所知っていたら教えろって!」

「教えたのか?」

「今は教えねえよ・・理由も言わねえし・・」

「サンキュー」

「聞いてもいいか?」

「後で話すよ!いや・・渡したほうが早い」

「後で教えるんだな?」

「ああ・・・サテン行こう!」

「おう!見送らせろよ・・いいな!」

「ああ!そのつもりだ。でも・・・」

「なんだ?」

「誰にも言わないでくれよ・・・」

「困ったら電話しろ!約束だ。」

「ああ・・そうする。」

佐々木クンのお父さんが経営する「ノーパン喫茶」でしばし床だけ眺め、

「ちょっと待っててくれ!」

僕は乗船券を買いに行き、そして佐々木クンに手紙を渡した。

「じゃあ!」

「おう!」

そして、僕は船に乗り込んだ。幸い。偽名で乗れたし、経由便だから、

僕がどこにいるのか?皆目の検討はつかないだろう。

ー-遥かなる航路 2-へ続く。


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