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「やられたら・・・やり返す」第2章通夜の夜に その3 [血みどろ?の争い]

― 戦いのゴング3 ―

通夜は“社葬”。つまり、オストドが前に勤務していた会社が取り仕切る。

でも、オストドは確信していた。

「社員全員出席できないで・・何が社葬だ!バカヤロー!」

だから、あれほど念を押したのだ。

「仕事・・・大丈夫?」と・・・・

葬儀の手順としては、まず、火葬場の予約から始まる。

だから・・・火葬場を予約前に、葬儀委員長である番頭に確認したのだ。

「せめて・・・みんなに送ってもらいたい。」

そんな、オストドの想いは、一瞬にして崩された。

何しろ、「大丈夫」と言っていたくせに、「あっ!その日は切り替えだった・・・」

ふざけた話である。

それに、親父は会長ではなかったはずだ。全ての役職を取り上げ、監査役にしていたくせに、

会社の体面だけで、会長とは、これまた親父が哀れだった。

以前、親父の希望を伝えたことがあった。

それは、密葬希望だった。義理で来る人は来てほしくない。これが、親父の頼みだった。

「そんなこと出来るか!社葬に決まっているだろ!それに準備はしてあるんだ!」

これには唖然としたものだった。何しろ、いつ死んでも(殺されてもが正しいだろう)

いい準備をしているとのことだった。

そういえば、誰かに聞いたことがある。

「葬儀は死んだ人のためではない。生きている人のためにやるものだ」と・・・・

「じゃあ・・・仕方ねえか!」

だから、今回は敢えて反論もせず、従ったわけだが、それにしてもお粗末だ。

社員の仕事の段取りもできない。棺や仏衣は燃やしてしまうから、体面を保てればいい。

いずれ、オストドはしっかり仇を討たねばならない。これは、オストドの最初で最後の親孝行の

戦いのゴングの始まりなのだから・・・・

親父の葬儀の日は雨だった。きっと、親父の悔し涙だったのだろう。

無造作に安置されている建物から、別の式場へ運ばれてきた親父。

一体どの様に運ばれてきたのだろう。きっと・・・尊厳も威厳もない。ただのモノだったのだろう。

今回、喪主を務める父の後妻の意向で、最後の旅の支度は省略され、その亡骸を清めてやる

そんな事すら出来ず、エレベーターで運ばれてきたストレッチャーに、父の亡骸は既に

“納棺師”を名乗る者によって。仏衣が着せられ、お粗末この上ない寝具の上に寝かされた

父の遺体はどんなに冷たかったのだろう。

何しろ、肌寒くなってきたのに、“合法的に機械的に殺します病院”(悪いがそう呼ばせてもらう)

から、浴衣一枚着せられ、薄い寝具だけで、冷蔵庫の中に居たのだ。

ふいに声を掛けられて振り向くと、遠縁にあたり、オストドの家庭教師なんぞを引き受けてくれた

某J大卒業で、父を唯一心から心配してくれた。オストドにとっては、兄貴みたいな存在だ。

「何か手伝う事あるかと思って・・・」

「ひろちゃん・・・親父が・・・・」

「うん!」

「死んだんじゃない。殺されたんだ。」

「気持ちはわかる。俺もそうだと思うけど、今はちゃんとしないと・・・浮かばれないよ!」

「判っている!きっと・・・仇は討つ!」

次から次へと弔問客がやってくる。知った顔を見つけては、挨拶に向かう。

「ったく・・・お前は・・・」

頭をカサで叩いた人もいた。オストドの記憶によれば、その昔父に連れられ、幼稚園の頃

出かけていった工事現場の作業責任者の人だった。

オストドが突発的に代取を辞めてしまったので、怒っていたのだ。

弔問に来てくれた人や手伝いに来てくれた昔の仲間で、今でも親交のある人やら、次から次へ

オストドは何回いや、何十回頭を下げて歩いたことだろう。

本来なら、葬儀委員長と喪主がするべきところを、オストドは一人で廻っていた。

「ご長男様。そろそろ・・納棺のお支度が・・・・」

「はい。」

納棺師2名が、親父に薄化粧を施し、まるで親父は眠っている様になった。

見てくれだけの、安い棺に入れられた親父の亡骸に、愛用していたスーツが掛けられた。

「どうだ!これ・・新橋で・・・・」

「へえ~そんなに安く?親父買い物上手いなぁ~」

そんなやりとりをしたスーツだった。Yシャツもネクタイもなし。親父が愛用していた杖もない。

きっと処分してしまったのだろう。親父の冷たくなった脚に足袋を履かせ、途中で脱げない様に

紐を結び、草鞋を履かせた。

「親父・・・ごめんな!こんなに冷たくなって・・・・」

オストドはあふれ出てくる涙を拭いもせず、最後の支度を終えると、静かに棺の蓋を閉めた。

「起きるんなら・・今のうちだぞ!明日には燃やされてしまうんだぞ!」

そう声を掛けて・・・・

「戦いのゴング」その4へ続く


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