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「トラブルコンダクター ものがたり」⑳「お疲れ様・・・・」 [暴露ばなし]

~ニセモノの持込はご法度です。~
「お疲れ様です。」と税関の検査台に並ぶ。
胸には「旅行会社名の入ったネームタッグ」首からは「外務員証」がぶら下がっている。
「お疲れ様。今日はどちらからの帰国ですか?」
「韓国・ソウルです。」
「申告する・・・まあないですよね」
「ええ。」
「お疲れでした~。」
「お疲れ様です。お先です。」と税関を抜ける。
手にはパイロットケースとぶら下げたビニール袋。会社の女の子に頼まれた代物。
「オストドさん。明日からソウルですか?」
「うん。今日前泊で明日から・・・・何かあるの?」
「ええ。イミテ・・買ってきてくれませんか?」
「税関で没収されなきゃねえ。」
一昔前の「ソウル」と言えば、「男性天国」とか「ニセモノ天国」と言われていたほど。
現にこの厳密に言えば「手配旅行」と言うツアーも何本乗っているだろうか?
「昔、ソウルに行くのにVISA必要だったんだよ~」と言えば、「へぇ。結構おじさんなんですね。」と言われるだろう。
確かVISAもマルチとシングルがあって、マルはよほどの事がないともらえない代物。シングルも取得に24時間は必要だった。
私のパスポートにはマルチのVISAが押してある。
このツアーの目玉は「イーテウォンでのお買い物」である。
とあるビルの地下室につながるドア。しかも、通常の観光客なら知らずに通り過ぎる「看板もなにもない」裏通り。お客様の入店が終るとドアには鍵が掛けられる。
ここには「ダンヒル・・ニセモノ安いよ!ヴィトンニセモノ・・・」と流暢な日本語が飛び交う。
「ねえ。このダンヒル・・・中身は?」時計のムーブメントのはなしである。
「香港製・・・・・こっちはセイコーね。」と言う。セイコーの中身で表はダンヒルもどき。
こんな時計が8000円で買える。
でも、買いすぎは良くない。ほとんどが成田の税関で摘発を受けるからだ。
運よくすり抜けたのは、当時で2~3割ほどである。まあ、添乗員もこの件に関しては「知らぬ存ぜぬ」で通すのが関の山だ。

~「今日帰国して・・・また行くの?」~
最盛期は年間300日ホテル暮らしの日々であった。
ある時など朝、成田に到着。会社から派遣されてきた女の子と空港近くのホテルへ行く。別にやましいことをするわけでない。デイユースしてある部屋で、添乗金の清算・ドキュメントの返却をし、新たなツアーの添乗金やドキュメント・航空券の束を受け取るだけの話。会社の女の子を「用件が終ればすぐに帰社する」のだ。
ほとんど同時に妻がホテルにやってくる。スーツケースをぶら下げている。
娘が休みのときは一緒に来ることもあるのだが、大体1人でやってくる。
そこで、お土産やら「洗濯物」の詰まったスーツケースを引き取って帰って行くのだ。
一緒に昼食を摂り、部屋へ戻る。シャワーを浴びて着ていたものも全て持って帰る。
妻の報告を聞きながら、マッサージさんに身体をほぐしてもらうこともある。
妻が荷物を持って帰るのを見送り、お昼寝タイム。少し寝なければ疲れが取れない。「これ、娘から・・・」との差し入れはいつも栄養ドリンク。
なんでも、薬局の前を通りかかると「お父さんにアレ買わなきゃ」とおじいちゃんやおばあちゃんに貰ったお小遣いで買ってくれることもあった。
スタンバイの時間が迫り、つかの間の休息の終わりを告げる目覚ましが鳴り響く。
いつものようにセンディング業務を行い、出国審査へ向かう。
「今日帰ってきたのにまた行くの?」と出国係員。
「ええ。人使いの荒い会社でして・・・」とパスポートを受け取りつぶやく。
まだまだ家に帰るのは先のことである。


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