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「トラブルコンダクター ものがたり」21話「欠航・結構・もうけっこう」 [暴露ばなし]

~「泣いてもどうにもならないよ~」~
年がら年中飛行機に乗っていると・・・・・そう年間で100フライト以上。
「欠航」つまりフライト・キャンセル!なんてのにも遭遇することがある。
一番恐れるのは、「三大ピークシーズン」のツアーである。
例えば、「J○L同士の乗継」とか「A○A同士の乗継」なら、「何とかせい!」と怒鳴る前に何とかなる。しかし、「他社エアーライン同士」の乗継は「何とかしろ!」と怒鳴らねばなんともならない。まあ今なら「同じアライアンス同士」なら何とかなるのだろうか?
オストドとそのご一行様が「直撃」を受けたのは、「ど・ピーク」の8月の所謂ところの「お盆休み」のときのことである。
JALのシカゴ便で出発して、アメリカンに乗継ぎトロントへ、2日後にトロントからカナダ・エドモントンに飛び、カナディアン・ロッキーを周遊し、カルガリーからバンクバーへ飛ぶときの事だった。翌日にはバンクーバーから成田へ「満席のJAL」で飛ばねばならない。
いつもどおり、チェックインを行いガイド嬢に別れを告げ、国内線ゲート近くから外を見ているときのこと。
「ああ、俺の荷物が一番上にあるぞ・・・・もうすぐ出発だな。」とぼんやり考えているオストド。
・・・・この後はバンク-バーで中華の昼食。市内観光ではビデオ撮影・・・そんでフェアウェルパーティーを市内で日本食・・・・夜は遊びにいくかな・・・・・・
と一日の行程を「頭の中」で組み立て始めるのは、毎度おなじみ。
「おやぁ~?荷物が降ろされ始めてるけど・・・・なんでだ?」とカウンターへ行く。
「ちょっといいかな?」
「はい。なんでしょうか?」
「飛行機に積み込んだ荷物が降ろされているのだけど・・・シップ・チェンジ?」
「いいえ。そんな・・・・」とキーを叩く音と顔色の変わる・・・・・係員。
「少々お待ちいただけますか?放送でお知らせいたしますので・・・・・」
暫くすると各社のツアコンが呼び出される。
「フライトがキャンセルになりました。」
「はあ?理由は?」
「実は・・エンジンの調子が良くないとのことで・・・・機長判断でキャンセルで・・・」
「振り替え便は?」
「本日の便はこの後全て満席のご予約を・・・・・」
「それで・・?」他社のツアコンは全て(と言っても2名だが)女性ツアコン。目には涙が・・・・泣いても現実は変えられないのを習ってないのかな?
「それでですね。明日も満席なんですが・・・・臨時便を用意・・・・」
「あのさ、こっちは。明日のJALで昼過ぎにはバンク-バ-から出発なんだよ!」
「と、おっしゃられても・・・・当社の責任範囲は・・・・バンク-バ-までお運びすれば・・・いいわけでして、その後のことは知りま・・・・」途中でさえぎるオストド。
「ああそうかい。」何故かここから日本語に切り替えるオストド。
「ふざけんじゃねぇ~ぞ。こちとら日本の新聞社・・しかも大手3社の合同ツアー。
日本に帰ったらタップリ反○ーキャンのキャンペーン打ってやる。」とオストド。
他の女の子は「鳩が豆鉄砲喰らった」ように、一瞬びっくりしてすぐに泣きだす。
「責任者だしてもらおうか?」オストドの気迫なのか、女の子の涙がそうさせたのか?定かではないのだが、責任者が走ってやってくる。
「他の便をキャンセルしてでも・・・・こっちに飛行機廻せ!」とか、「バンク-バ-から飛行機もってこい!」とか喚き倒すオストド。
「1時間ほど猶予いただきたい」との責任者からの申し出に頷く。
こちらも「現地受入ラウンド」やら、本社に連絡しなければならない。またお客様にも「説明」をしなければならない。しかし、女性のツアコンは「泣いてばかり」なので、しょうがなく私が全部のお客様を集合させ、「事の経緯」を説明し、しばしの猶予をいただく。まあ「無理して飛ばして、ロッキーの山中に落ちるよりは・・・・」と半分脅かしが入ったが・・・・もし、あの時のお客様がこれを読んでいたら「お許しいただきたい。」なにせ、頭に血が上った若造だったので・・・・・・。今なら、「ラッキーでした。機長の決断に感謝します。何故なら事故を未然に防いでくれたのですから・・・」とでも言おう。
結局、バンクーバーから新しい飛行機を持ってくるから、3時間ほど待て!とのこと。
「昼食をだせ!」と言うオストドの要求に「1人10ドル!」の声。「1人10ドルでなにが食える。20ドル。」「いや15・・・・嫌なら出さない。」の交渉で15ドルのクーポンを各自に配る。「食事」と言ってもハンバーガーやホットドックくらいしかここにはないけど・・・・・。

~「お前がアナウンスしろ!」~
「新しい飛行機」が届き、責任者と握手を交わして乗り込もうとした瞬間。
「あのさ。日本語出来る奴帰したから・・・・・お前アナウンスしろ!」
「はぁ?冗談じゃナイ。」
「でも・・・折角用意してやって・・・・後で文句言われたくないから、・・・お前が謝っておいてくれ・・・・」
「タダで人に頭下げさすのか?それにアナウンスまで・・・・・」
「50ドルのクーポンやるから・・・・・」
「100ならいいけど」
「オッケーじゃあ・・これ」と100ドルクーポンを貰う。
しょうがないので、ジャンプシートに座り、パーサーからマイクを渡される。
「まず、シートベルト&ライフベストの着用アナウンスだな?」と確認する。
もちろん、英語が先・・その後、日本語アナウンス。
「・・・シートベルトは必ずお締めいただき・・・・。・・・・・ふくらみの足らないときは・・・」
とお決まりのアナウンス。「人使いのあらいエアーラインだ・・・・」と思った瞬間、滑走路に正対するや否や機はグングン加速してゆく、ある程度の高度に達したのだろう。
機長からの挨拶。「ソリー」だけなんだけど・・・と思いながら、「お客様にご案内いたします。当機の機長からの挨拶によりますと・・・・・・本日はエンジントラブルのため、出発が遅れ、お急ぎのところ誠に申し訳けありません。○ーキャン社員一同になりかわりまして・・・深くお詫びいたします。またカナダへお越しいただいた折には、当航空のご利用をお待ちして・・・・・・」とアナウンスする。
さあ、これで「仕事」は終わり・・・と席を立つ。
しかし、100ドルの仕事は終らない。最終着陸態勢の前にパ-サーが呼びに来る。
また「お仕事」しなければならない。
「お客様にご案内申し上げます。当機はまもなく目的地バンク-バ-国際空港へ向け、最終着陸態勢に入ります。お使いのリクライニング・テーブルは元の・・・・・」とやらされ、ジャンプシートに「縛り付けられる」オストド。もう席に戻る暇はない。
軽い接地のショックと共に急減速に身体が飛ばされそうになるほど。
パサーの英語挨拶に続き、「当機は只今バンク-バ-国際空港に・・・・・」ついでに、「○○ツアーのお客様にご案内いたします。各自おトイレを済まされたら、ターンテーブルのところにご集合ください。」と業務連絡をする。
お客様の降機が終わり、荷物を取りに席へ戻る。パ-サ-から、熱い・・・祝福をいただく。「アンタさあ・・・うちで一緒に飛ぼうよ。アナウンス上手かったよ!」
あわてて頬をぬぐいながら、「欠航・結構・・・もう結構!」とくだらないダジャレを飛ばし、一目散に逃げ出すオストドの姿がそこにあったのは言うまでもない。


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