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「父親を辞める日・・・・」序章 葛藤・・・・ [「父親を辞める日・・・・」]

序章 葛藤・・・・・

「父親を辞める!」妻に宣言をした。
多分・・・私の精神状態がおかしいのかもしれない。大勢の人々はそう思うだろう。
しかし・・・至って精神状態は極めて良好。睡眠も薬に頼っている日々だが・・・・昼寝程度なら薬の力に頼る必要はない。
食欲だって・・・時間になれば腹は空く。ただ・・最近「何食べたい?」と聞かれるのが嫌になってきたくらいで、ほぼ毎日のように会社の近所にあるラーメン屋に通っている。
何故なら・・一緒に食べに行く同僚が「ラーメン派」なので・・・彼に付き合っている。
会社から外訪中なら・・・適当にハンバーガーだとか喫茶店のランチだとか・・・立ち食いソバ、牛丼など・・・バリエーションは広がる。
唯一楽しみなのは土曜日の昼食。妻手作りの弁当を持って会社へ出勤する。
私は子供時代・・・親の手作り弁当なんて食べたことがない。
家政婦さんの作った弁当を持ち、幼稚園・小学校と通った。母親の作ったものは・・・数えるのも簡単。たった・・・2回。
確か・・焼きうどんとチャーハンそれだけ。
後はひたすら・・本能で「生きるためにだけ」に与えられた愛情のかけらも微塵もない食事をただ・・・貪っていたにすぎない。
まあ・・・母乳すら一度も飲んだこともないし・・・ただ・・・本能だけの世界。皆さんには理解できない世界で私は育った。
それでも・・・小学校4年生になるまでは・・それが当たり前だと思っていたのだが・・・・

私はただ・・・将来「社長」と呼ばれるためだけに・・・英才教育を受けさせられていた。ピアノ・習字・剣道・柔道etc。
人間誰しも持っている・・・職業選択の自由を奪われた・・・ただのロボット人間。
それでも・・・「事実」をしらなければ、私は何一つ疑うことなく・・・その道を極めていたのだろう。

私の「人生」が大きく狂ったのは、小学校4年生。育ての母親に捨てられた日からだった。
その日のことは鮮明に覚えている。母が出て行った日・・・私は小学校に居た。電車・バスを乗り継ぎ通った私立の小学校の教室で授業を受けていたのだ。
父である育ての父は、只管に隠そうとしていた。僕が母に捨てられたのが解ったのは・・・母のお弟子さんたちのやりとりを聞いてしまったからだ。
その日から・・・どれくらいたった時だったか・・・・私は「養子」だった事実を父の口からでなく・・・父の末妹のたった一言。「貰われっ子のくせに・・・」だった。
私はそのとき・・ただ泣き喚くしか出来なかった・・・3時間ほど・・泣き喚き・・私の大人への信頼は全てなくなり・・・心を閉ざした一人の少年になった。
そのとき・・私は悪魔と契約を交わしたのだろう・・・その父の末妹の旦那は病死し、二人の子供も一人は病死・・そして一人は・・・行方知らず・・・さらに末妹を待っていたのは・・・一族からの追放だった。
その報を聞いたとき・・・子供らしさを悪魔に売り渡し望んだ恨みを晴らしてもらうことが出来た。正直に言えば心の靄が晴れた気分だった。
それから・・・私は一人でいることが多くなっていった。大体考えることは「死の選択」だけだったが、悪魔は私の命などいらないらしかった。父との会話さえ・・・ほとんどなかった。
私の父の子育て論は「子供に何不自由なく・・モノや金を与えればよい」・・・だった。
もし・・この文章を読んでいただけている皆さんに思い出して欲しいのだが、ノート1冊えんぴつ1本買うのに・・・親に明細を書いた子供時代を過ごした人がいるだろうか?
私はそんな日々を過ごしていた。ノート1冊50円とかメモ用紙に書いておく・・・そうするとそれを読んだ父がお金だけをテーブルに投げ出しておく・・・そんな生活を私は過ごしていたのだ。

「本当の自分だけの家族が欲しい!」

クリスマスや誕生日にはサンタクロースや神様に祈り続けたことがあるだろうか?
私はそんな日々を過ごしていた。ただ・・・本能は私に生きる様、命じ続けていた。
ただ・・・見せ掛けだけの親子関係・・・・狂いそうな日々を私は耐えていたのだ。
いや・・・一度だけ・・・入水自殺を図ったことがあるのだが・・・それすら失敗する中途半端は日々を過ごしていた。
そう言えば・・・殆ど高校生になってからは家に帰らない日々が続いた。
父が連れてきた・・新しい父の後妻に嫌われていたのだ。洗濯も食事も父の目がなければしてもらえない。そんな中学生時代。多感期な年頃の少年にはそれだけで・・・充分な仕打ちだ。
3食の食事は全て外食、お風呂は家で入れてもらえないので銭湯に通い、コインランドリーで洗濯をしてその横で参考書を開く生活。ただ・・・寝に帰るだけの家・・・それに比べ・・・・悪魔の囁きは私を誘惑の世界に導いていた。
「義務教育を終えたら・・・家から出して欲しい」そう父に言ったこともある。だが・・父は私にキャッシュカードを渡した。
「お前が・・成人するまで・・養育の義務がある・・・」世間体だけを気にしていた父だった。

私が父に頭を下げ、家業の会社に入ったのは12年ほど前。
「このままでは・・・娘の将来もあるし・・・大学にも進ませてやりたい」
そう考え・・・転勤のない父の家業に入社した。
それから・・数年私には新しい家族が出来た。いや・・・家族同様の人たち。
取締役に就任し・・・「次はお前の番だしっかり・・今のうちに吸収できるものは吸収しなさい」そんな父の言葉が始まりだった。家族同様の人たちとは社員やその家族。そして関連会社の社員やその家族。その数だけで・・数百人の生活が私の頼りない肩にのしかかってきた瞬間だった。私の舵取りが誤ればその人々は職をそして・・・社宅に住む人々は一時的ではあるが・・住まいさえ無くなってしまう。

その頃から・・・私は自分の中にいるもう一人の自分と相対することになる。
私はてんびん座・・・・常に・・・釣り合っていなければ気がすまない。性格の持ち主なのだ。
今・・私の中では会社人間である私、そして・・・一人の男として・・・妻と娘を愛する人間。
会社人間の私は言う。「いずれ・・・娘に婿を貰って・・・会社をそして・・・一族の存続を・・財産を守らねばならない。」
だが・・もう一人の自分は言う。「お前が一番嫌っていたこと・・・それをお前は愛する娘に押し付ける気か?」

多分・・・娘には私の心の葛藤は解らない。いや・・出来れば解らないで欲しい。
もし・・彼女がそれを解ってしまったら・・・彼女は彼女なりに自分の夢をあきらめ・・・私以上に重たい十字架を背負うことになる。
父がまだ現役バリバリ働いている今なら・・・「いっそ・・・一家心中でも」と考えたこともなくはない。
自ら死を選んだ場合・・どうだろう。娘は更に・・重くなった十字架を背負っていかねばなるまい。父親を死に追い詰めたことを彼女なりに悔やまなければならなくなる。

「こんな会社なくなっちゃえ・・・」そう思ったこともある。しかし・・・一向に無くなる気配は微塵にも感じられない。
無借金・・・会社の資産で計算すれば・・・現在の給料を仕事をせずに、社員に払い続けたとしても・・・定年もあるから・・・そうなれば・・・・20年以上払える資力がある。退職金の心配も無用。政府系の共済制度に掛け金を払い込んでいる。それに不思議と無くなっちゃえと思えば思うほど・・・仕事が勝手にやってくるのだから・・・始末に負えない。
私の中に巣喰う悪魔が囁く・・・・「全部お前のモノになったらさ・・・会社解散して・・資産全部遣っちゃえ!」
それに抵抗する私の理性・・・・「馬鹿やろう!そんな事したら・・・家族同然の社員やその家族・・関係者はどうなる?」

幸か不幸なのかは私には解らないけど・・・我が家に跡を継がせるべき男の子はいない。」
居て欲しかった反面・・・ほっとしている自分がいるのも確か・・・男の子が居れば・・父が私に施したように同じ英才教育・・・いや・・・それ以上のモノを受けさせていたかもしれない。
だが・・・我が家いや・・・一族の本家筋では・・・娘が一人・・・つまり私の愛する娘だけが後継者候補なのだ。


「父親を辞める日・・・」第1章へ続く・・・・





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空飛ぶ食欲魔人

livly-cu様
いつもご訪問&Niceありがとうございます!(●^o^●)
by 空飛ぶ食欲魔人 (2009-12-05 07:43) 

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